ワインをたくさん飲めばいいわけではない
酸素は私たちが生存していくのに欠かせないものですが、体内に取り入れた酸素のうち2%ほどは「活性酸素」になるといわれます。活性酸素は、他の物質を酸化させる力の非常に強い酸素や酸素の誘導体のことをいい、ミトコンドリアでエネルギーを合成するときや紫外線でも発生します。
活性酸素は体内では、ウイルスや病原菌などを攻撃する役目を果たしていますが、増えすぎると正常な細胞や遺伝子も攻撃し、酸化させてしまいます。そのため体内には活性酸素から身を守る防御システムが備わっています。しかし、歳をとるにつれてこの力は弱まります。すると、脂質の酸化やDNAの損傷などが起こり、動脈硬化のほか、心疾患や糖尿病、がん、認知症などの発症につながるのではないかと考えられています。
この活性酸素による酸化を抑える抗酸化物質として、以前よりビタミンEやビタミンCの名が挙げられていました。その後、それらに匹敵する効果がポリフェノールにあることが明らかになり、さまざまなポリフェノールがクローズアップされるようになりました。
ポリフェノールが活性酸素を消去するメカニズムには、化学的な構造が関係していることがわかってきています。ただしポリフェノールの種類は多く、構造もさまざまで、抗酸化力や吸収や代謝のされ方が異なります。効果がわかったとしても、実際に生体内でどのような反応をして効果をもたらすのかといった作用機序の解明にまではなかなか至りません。
そのため、トクホに認可されている成分はありますが、どんなポリフェノールをどれくらい摂取すれば健康維持に効果があるのかは、はっきりとわかっていないのが現状です。ですから赤ワインのポリフェノールが体に良いからといって、飲みすぎたり、お酒に弱い人が無理して飲み続けたりすることはかえってよくありません。
みそ汁にもポリフェノールがたくさん含まれている
ほかにもポリフェノールを含む食品はたくさんあり、日本人が昔からたくさん食べてきた大豆には、ポリフェノールの一種イソフラボンがたくさん含まれています。大豆、特にみそ汁の摂取が健康に貢献してきたのではないかと注目されています。
特定のポリフェノールを食べるのではなく、ポリフェノールのような抗酸化物を含む食品をバランスよく食べて、ポリフェノールの総摂取量を適度に増やすことが、健康食につながるのではないかと専門家は考えています。
岐阜県高山市の住民を対象にした疫学研究「高山スタディ」からは、ポリフェノールの総摂取量と死亡率の関係が示されました(Taguchi, C., Kishimoto, Y., Fukushima, Y. et al. Eur J Nutr, 2020)。この研究は、食習慣を含めた生活習慣と、死因や生活習慣病の発症との関係を明らかにすることを目的としたもので、「ポリフェノール総摂取量」と「全死亡率および、心疾患や消化器疾患による死亡率」は逆相関することが示されました。つまりポリフェノールの摂取量が多かった人ほど死亡率は低く、また心疾患や消化器疾患による死亡率も低かったということです。
まだ不明な点は多いのですが、ポリフェノールは食物繊維とともに、炭水化物、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルの五大栄養素に続く栄養素になるのではないかと期待されています。