医療事故を少なくするために、風通しをよくする

【大宮】私たちは素人だから。なので、最初から選択肢がわかるといいんですけどね。

鳥取大学医学部附属病院の原田省病院長
写真=中村治
鳥取大学医学部附属病院の原田省病院長

【原田】今はロボット支援手術や腹腔鏡手術など侵襲の少ない、つまり身体に負担が少ない手術がある。最初の医師は痛みが長く続くので手術という選択をしたと思われます。

ただ、大切なのは患者さんの気持ちです。二つの選択肢を患者さんに示して「どうしますか」って言わなきゃいけない。それが今の医療の流れです。

【大宮】患者さんが「他の手段」を聞きやすい環境が全国に広がってほしいです。ここ米子から……。

【原田】(腕組みして)確かに手術が好きな医者というのもいます。そういう人は手術を勧めがち。本当は、私はこの手術は得意だけれど、薬という選択肢もある。

薬の得意な医師を紹介しますという連携があればよかった。自分が得意な治療法に患者を付き合わせてはならないんです。

【大宮】エッセーに面白いから書いたんですけれど、体調を崩して病院に行って「私、風邪引いちゃったみたいなんです」と言ったら、「風邪かどうかは医者が決めるんです」とムッとされちゃって。謝りつつ、こんな症状ですが、なんだかわからないんです、って言い直したんです。

【原田】(苦笑いして)無駄にプライドが高い医者ですね。

【大宮】だからとりだい病院に来て驚いたんです。原田病院長を始め、皆さんが話しやすい。風通しがいい感じがする。

【原田】風通しがいいと言われるとすごく嬉しい。我々は常に、医療の安全を担保すること、つまり医療事故を少なくすることを考えています。その一番の策は、風通しを良くすること。

みんなが気軽にいろんなことを言えるという雰囲気を作ることがすごく大切。不都合なことがあって隠せば、それが常態化して、医療事故につながる。透明化ですね。

大宮エリーが画家になった理由

【原田】ところで、エリーさんって、作家であり脚本家であり映画監督でもある。そのエリーさんはなぜ画家になったんですか?

【大宮】東日本大震災前、パルコミュージアムの方から「エリーさん、いろんな仕事していますけど、アートだけはやっていませんよね、展覧会やりましょう」って言われたんです。

私、何も作品ありません、って答えたら、「じゃあ作りましょう」という話になった。私は「えーっ」、て(笑)。でも、飛び込んでみようと。震災があって一回流れた。

でもまたパルコミュージアムの新担当の方がやってきて、「やりましょう」って。「えっ、覚えていたんですか」って(笑)。

【原田】テーマは何か決まっていたんですか?

【大宮】ある方と対談したとき、震災で、心の傷を負ったことを伝えられない人がいる、どうしたらいいですか、という話が出ました。これだって思ったんです。そういう「思いを伝えるということ」という展覧会にしようと。

演劇だと役者さんが舞台の中での主人公ですが、この展覧会ではお客さんが主人公になって、いろんな舞台装置を開けたり、登ったり、体験していくんです。たとえば、人生にはさまざまな“ドア”が立ちはだかりますよね。

私たちは子どもの頃、その“ドア”を開ける鍵をたくさん持って生まれてきたはずなんです。それをいつの間にか忘れちゃっている。『たちはだかるドア』という作品は大きなドアの前の床に、百個ぐらいの大小さまざまな鍵が散らばっている。

来場者は直感で鍵を選ばないといけない。選んでドアに差し込む。すると、ドアがバーンと開くんです。人生にたちはだかる困難に立ち向かい、それが開いていく、その感覚を、体感してもらう。嬉しいもんですよ。実はどの鍵も開くようになっていたんですけれど。

【原田】素晴らしいアイデアです。目の前のドアが自分の選んだ鍵で開くとなんだか自信がわいてくるような気がします。