動画SNS「TikTok」は、なぜここまで人気になったのか。電通メディアイノベーションラボの天野彬さんは「YouTubeとは違い、TikTokは最初から“スマホ”に最適化して設計されている。その使い心地のよさが、『見たい動画ばかりが出てくる』という状況を生み出している」という――。

※本稿は、天野彬『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』(世界文化社)の一部を再編集したものです。

スマートフォンを操作する人
写真=iStock.com/PixelsEffect
※写真はイメージです

人々がTikTokにはまる3つの理由

人々はTikTokになぜここまではまるのか。

これまでにも同様のサービスはあったし、例えば2010年代前半に流行したVineのように短い時間の動画をシェアするサービスも多くあった。ティーンに大人気のARフィルターや編集ツール一式を備えている点で、写真共有アプリのSnapchatにも似ている。

だからこそ、そうした他のサービスと何が違ったのかということをユーザー視点からアプローチしていく必要がある。

本稿では、その理由を大きく3つの要素で説明することを試みたい。TikTokのスティッキネスは、①サービスの使い勝手に関すること、②SNSでシェアされるコンテンツの特性に関すること、そして③それがどう届くのか、といったことに分解される。

もちろんこれらは排他的に独立しているというよりも、相互に連関しながらユーザーにとっての価値を実現していると捉えることができる。より詳述すると次のようになる。

理由① スマホに最適化された設計で、短尺動画の閲覧から選別までストレスなく、かつ長時間見られるような優れたUXを備えている(見る立場:オーディエンス)
理由② 他のSNSより手軽に高いクオリティの動画をつくりやすく、また自分の表現・表出ができるクリエイティビティの裾野が広い。音楽や動画を自由に活用できる点で、現代のサンプリングカルチャーとも親和性が高い(つくって発信する立場:クリエイター)
理由③ レコメンドアルゴリズムが秀逸で、コンテンツマッチングの精度が高い。UGC(※)がうまく流通する仕組みがある(両者をマッチングするサービス側の特性:アーキテクチャ)
※User Generated Contents:ユーザー生成コンテンツの略。ユーザーの手によって制作・生成されたコンテンツ。

これをユーザーの視点からMECE(モレなく、ダブりなく)に整理したものが図表1だ。

「スマホ用」に振り切り、ストレスフリーな使い心地に

まず、3つの理由の大きな前提になっているのが、「夢中になる理由①」にあたるスマホ最適化されたアプリであるということ。いわば、新興のサービスだからこそ、そのようなユーザーの新しいコミュニケーション環境に振り切れたわけだ。

「短い」時間で楽しめるショートムービーアプリであるというレゾンデートルは、PCで長い動画も見るかもしれないと想定されるサービスプロダクトとは、まったく違う設計思想に立脚している。

スマホシフトというよりも――これはそもそもスマホ向けではなかったものがスマホ向けになること、つまりもともと別物を調整したということを含意する――、そもそもスマホのためにつくられた、スマホネイティブなアプリだと言い換えることもできる。この両者の差は意外に大きい。

アプリとしての基礎的な操作性(UX:ユーザー体験)がとても秀でていることは、TikTokのアプリを起動すれば誰でもすぐにコンテンツに触れられるその速度によって体感できる。

アプリを起動するとロゴが表示されて、すぐにおすすめ動画が画面全体を使って自動再生される。面白ければ見続ければいいし――TikTok内のショートムービーはデフォルトでループする仕様になっている――他のものが見たいと思えばすぐにスワイプすれば次のおすすめ動画が再生される。あとはその繰り返しだ。

ユーザーが操作に迷ったり、どれにしようかと悩んだりすることがない。これはユーザー側の負荷が小さいということを意味している。