SNSの普及は「消費」のあり方を根底から変えつつある。電通メディアイノベーションラボの天野彬さんは「SNSでウケない商品は、ビジネスそのものが難しくなりつつある。商品の発見から購買まで、すべてがSNSで完結する未来が近づいている」という――。

※本稿は、天野彬『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』(世界文化社)の一部を再編集したものです。

SNSアプリアイコン
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「口コミ」提唱から半世紀…広がる消費者発信メディア

いまやその言葉を聞かぬ日はないほどに口の端に上る「口コミ」という言葉は、ジャーナリスト・ノンフィクション作家の大宅壮一が1960年代に生み出したといわれている。もともとは「口頭でのコミュニケーション」の意味で、テレビや新聞などのマスコミュニケーションとの対比のもとに提唱された。

大宅氏の時代には、小規模なコミュニケーションが念頭に置かれていたと思われるが、現在ではインターネット、特にソーシャルメディアやSNSの発達によって口コミの影響力は巨大なものとなった。

デジタルマーケティングの発展した英語圏では、早くからそのような状況が理論化されていった。口コミが生み出され集まる場所という意味で、Consumer Generated Media(消費者発信メディア。略称CGM)という言葉も盛んに使われるようになる。

日本でも、レシピを共有する「クックパッド」、コスメ情報の「アットコスメ」、グルメ情報の「食べログ」など、代表的なものは2000年代中盤に生まれてきた。もちろん、紙幅の都合上挙げられていないだけで、ジャンルやテーマが設定された、口コミ/情報共有のための場はこの他にも数多くあるし、最近はそのスマホシフト版とも言えるさまざまなサービスが生まれてきていて、老若男女問わずこうした情報収集は当たり前のことになっている。

口コミ専門サイトに起こりやすい「ある効果」

ただし、本書の読者もそうであるように、口コミを完全に信じている人はいないだろう。誰もがどこかで疑わしいものではないかと、時に警戒しながらチェックしているはずだ。久保田進彦氏と澁谷覚氏の研究では、そうした生活者の態度を「疑念効果」と呼んでいる。口コミの正しさを疑い、そこでの態度変容がブロックされる効果のことだ。

その研究結果によれば、SNSの口コミは負の内容が少なく正の内容向上につながるが、口コミ専門のサイトが多ければ、それだけ態度変容が起こり購買意図の向上につながるが、口コミ専門のサイト(図表1では「プロモーショナル型」)においては、正の内容が多いほど態度変容や購買意図が減少するという。こんなにポジティブな書き込みばかりなのは何かおかしいと疑ってしまうわけだ。

このソーシャル型とプロモーショナル型に近い区分として、ソーシャルグラフとインタレストグラフという2つの情報ネットワークのありかたに分別することがある。前者のソーシャルグラフは、友人や知人のように社会的に関係のある者同士の結びつきを示しており、後者のインタレストグラフは、興味や関心の近い者同士の結びつきを指している。もちろん両者は重なることもあるが、別途のものとしてカウントされることが多い。

*口コミが消費者に与える影響などを『そのクチコミは効くのか』(有斐閣、2018年)にまとめ、「疑念効果」という概念を提唱。