そんなに拡散されるなんて…情報は投稿者の想定を超えてゆく

考えてみれば、ソーシャルグラフでの口コミはSNS以前にも学校や会社や家庭など……さまざまな人間関係のもとで発生していたと言える。人間の言語は評判や噂話を広めるために発展したという説もあるくらいなのだから。

しかし、インタレストグラフはインターネット以後、特にソーシャルメディアの普及以降の現象であると言ってよい。同じ関心を持つ人同士で情報を交換することは、そうした人々のみが集まり、コミュニケーションを交わすことの手間やコストがとても大きいことから、それ以前は簡単には実現し得なかった。だからこそ、口コミサイトが隆盛したのである。

その口コミの中でもソーシャルグラフで起こるもの、つまり特にSNSを通じてボトムアップ型で情報が急速に広がることを「バズ(Buzz)」と呼ぶ。「バズ」とは、蜂が飛ぶ際の「ブンブン」という音が原義で、そこから転じて騒音や人々が集まって話すことによるガヤガヤ感を意味する。ウェブマーケティング業界で拾われ、ネット上で人々が草の根的に話題を広げ拡散していくものを「バズ」、そのような現象が起こることを「バズる」と言うようになった。

ここまでの議論からもわかるように、バズはインタレストグラフを超えるものを含意している。関心の近さ、情報的な親和性の近さという壁を越えて、本来は届きそうにない人へも届いてしまうからこその魅力がある。その意味で、SNSにおけるシェアは、シェアする主体の想定を超えた投企性を潜在的に内包しているのだ。

どこからが「バズ」なのか…定義づけにはゆらぎも

「バズる」というワードには、「短期間」に「大量」の発信や共有が起こるというニュアンスが含まれている。もちろん情報がゆっくり広がっていく現象を「バズる」と呼ぶケースもあるが、一般的に「バズ」とは、一気に大量に降ってくるゲリラ豪雨のようなものなのだ。

予想もしなかったことが突然起こって拡散し、そしてそのムーブは長くは続かず残らない。また、どこからが「バズ」なのかという線引きも難しい。例えばZOZOの前社長・前澤友作氏による2019年初頭の「1億円お年玉企画」は、それまでのリツイート数世界記録の355万件を塗り替え530万を上回った。

このような超特大のケースを指すこともあれば、かわいい犬の写真が1万リツイートされたようなものを「バズった」と言うこともある。そして、どちらにも違和感はない。「バズる」という現象は多義的で、そのような「ゆらぎ」を持っていることを留意しておくべきだろう。

ところで、「バズ」と同様の意味で、「バイラル(Viral)」という言葉が使われることもある。こちらは伝染病が広がるように、話題やアイデアが人づてに拡散していく様を指す。例え方が悪いと感じるかもしれないが、ネットワーク科学の分野では人々の噂話の広まりとウイルスの感染の拡大は、どちらも同じように分析される(新型コロナウイルスが短期間で爆発的に広がった現状を考えると、その比喩の“正しさ”を実感せざるを得ない)。