いまや公的なメッセージ発信にも使われている
さらには、若者が政治的なメッセージを発信する場としてもTikTokが注目されるようになっている(もちろんそれ自体は他のソーシャルメディアでも見られることだが)。
2020年のBLM(Black Lives Matter)――アメリカで始まったアフリカ系アメリカ人への人種差別に対する抗議運動――と気候変動への抗議活動――地球に長く住む分だけ重要――なども、TikTokでメッセージの発信が行われた。
また、2020年6月には、当時のアメリカ大統領ドナルド・トランプ氏がオクラホマ州で開いた選挙集会で、TikTokの利用者が欠席前提に大量の申し込みを呼びかけたため、大量の空席が発生したと世間を驚かせた。人々の連帯を促し、動員に結びつけるツールとしても力を持ち始めていることを示している。
いまやTikTokは公的なメッセージ発信にも使われているし、TikTok自体もそうした啓発活動を進めている。
「素の自分」を出せる独特のコミュニケーション文化
新しいメディアは新しい才能とともに成長していく。ユーチューブもインスタグラムも、ブログだってそうだったし、さらに遡れば文芸誌もそうだった。そこで発信する新しい才能に人々が惹かれることで、その場全体が盛り上がっていく。
いまはデジタルメディア、さらにはスマホアプリによって私たちはセグメントされているからこそ、新しいムーブメントが見渡しづらくもあり、その一方で各々の場で熱量が高くなるとも言えるだろう。
TikTokには、素の自分=発信者の側面を表出させる独特のコミュニケーションの文化がある。飾らない内面やあけすけな本音、リアルな姿を見て好きになってもらいやすい場であると位置づけられる。
私生活を明かさない有名人に対して、TikTokスター/クリエイターは私生活の成功も失敗もありのままにシェアする。自分の中に秘めておきたい失恋さえも。だからこそ、ファン/オーディエンスは自分も心のATフィールドを中和して感情移入することができるし、彼ら・彼女らが発信する内容に影響されるわけだ。
象徴的なエピソードとして、アメリカで開催されるデジタル・コンテンツ・カンファレンスのVidCon(※1)では、2019年にひとつの異変が観察されたとTech Crunchの記事が伝えている(※2)。VidConではそれまでユーチューブ・クリエイターが注目されることが多かったが、2019年はTikTokのスターたちがその注目度において凌駕したという。
※1:人気YouTuber〈vlogbrothers〉が2010年に立ち上げたイベント。世界中のYouTuberが米カリフォルニア州に集結するオンライン動画の祭典。
※2:「誰もがインフルエンサーになりたい! Z世代のイベントVidConで感じたソーシャルメディアの未来」(2019年7月24日)
興味深い対比として、ユーチューブ・クリエイターは警備員に囲まれて有料の懇談会でファンと接触しているのに対して、TikToker(※)はもっと気さくで身近であり、外見にも多様性があるのだと。Z世代のアイコン、グラミー賞・歴代最年少受賞のビリー・アイリッシュに近いような人々こそがTikTokerなのだ。
※最近ではユーチューバーではなくユーチューブ・クリエイター、インスタグラマーではなくインスタグラム・クリエイターと呼称するようになっているので、TikTokerもTikTokクリエイターと呼ぶのが正しいが、本稿では便宜上TikTokerの呼称を使用する。