日本での火付け役が「10代女子」となった理由
もともと日本ではSNOWという加工アプリが流行っていたことからもわかるように、「盛る」ことへの関心が高い。それは良く見せたいということに加えて、自分の顔を表に出していいのかというプライバシー観にも関わる文化的背景があるためだ。
TikTokは、顔認証やビデオフィルター(エフェクト)、ビデオのタグ付けなど、コンピュータービジョン技術の高さが競争資源だったことも功を奏した。その強みが日本のユーザーに刺さったのだった。
それらの積み上げから、日本では2018年に初めのスパイクが起こった。マイナビティーンズラボによる「10代女子が選ぶトレンドランキング2018」を参照すると、流行ったモノ部門の第2位に「TikTok」、流行ったコト部門でも第6位に「トリコダンス」、第7位に「全力○○」といったTikTok関連のキーワードが軒並みランクインしていた。
2019年以降もより広範な世代に向けたTVコマーシャルを軸としたキャンペーン施策や、クリエイター育成プログラムなど、裾野を広げる活動によってその勢いは確固たるものになっていった。2020年以降は20代〜30代のユーザー層も倍増している。
現在は、私たちがよく知る企業・商品からラグジュアリーブランドに至るまで、その活用は広がっている。まさに、世界を制覇するためのブリッツスケーリングな拡大戦略が日本でも展開されていたがゆえの結果なのだ。
“若者が楽しむアプリ”の域は超え、株価にも影響
TikTokを若者のための手軽な動画アプリだと捉えてしまうと、そのインパクトを過小評価することになる。エンタテインメント性を満たす楽しいアプリであることはもちろん、これからさらによりパブリックな役割を果たす場になっていく兆しが見えてきている。
まず第一に、いまでは企業・ブランドやエンタテインメント領域の重要なプロモーションの場になっている。新しい商品・作品を世に出すとき、まずはTikTokで面白いことができないか、賑わいをつくり出せないかと考えるマーケティング担当者は確実に増えてきた。
メディアも情報発信の場としてTikTokでアカウントをつくり、運用することが活発化している。また、日本国内でも例えば「#お仕事図鑑」のハッシュタグで、企業が採用広報活動に活用したり、インターンシップの選考を行ったりといった取り組みも始まっている。
アメリカでは、金融サービスなど一般的には「堅い」とされる企業もTikTokの活用に乗り出している。
その認識の変化をもたらしたひとつの象徴的な事件が、2021年初頭に起こった「ゲームストップ騒動」だ。ビデオゲーム小売りチェーンを展開するゲームストップの株価が、なんと個人投資家たちの買い注文で前年来安値の約188倍にあたる483ドルまで急騰したのだ。
背後でヘッジファンドが空売りを仕掛けていたことへの反発ともいわれているが、もうひとつ重要な背景として、ユーチューブやTikTokなどのソーシャルメディア上で取引情報を探し、それをもとに一斉に動く若い投資家が増えていることに注目が集まったのだった。