1990年代後半から「極端な母乳推し」になっている

こうして1970年代に極端な「粉ミルク推し」へと振り切ったあと、母乳のよさが見直され、その反動からか1990年代後半からは反対に極端な「母乳推し」へと振り切っているように私は思います。

1989年、WHOとユニセフは「母乳育児成功のための10か条」という共同声明を発表しました。以降、世界的に母乳育児を推進する世論が高まり、日本でも医師、助産師、栄養士を中心に母乳育児の指導が行われるようになったのです。

この10か条を守って母乳育児普及と推進に取り組んでいる病院や産院を「BFH(ベビーフレンドリーホスピタル)」といいます。母乳育児の正しい知識が普及するのはよいことですが、こうした母乳育児推進に熱心な施設の一部では「もっと授乳をがんばらないと」「夜中にも授乳しないと」などと厳しく指導が行われ、つらい思いをしたというお母さんの話を聞くことがあります。

頭を伏せる女性
写真=iStock.com/RyanKing999
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ただ「頑張れ」と言うのではなく「支援」が必要

確かに母乳の分泌量を増やすには、プロラクチンというホルモンの値が高い産後すぐから、夜中も含めてたくさん授乳(頻回授乳)をする必要があります。特定の食品を食べることやハーブティーを飲むことなどは効果がないのです。

ただ、産後すぐのお母さんは大きなダメージを負っています。長時間の陣痛や出産で疲れ切っていたり、子宮が収縮するために下腹部痛があったり、産道や会陰の傷が痛かったり、帝王切開だった場合は腹部の傷口につらい思いをしたりと、人それぞれですが、元気いっぱいということは少ないでしょう。

ですから、ただ母乳育児を頑張るよう伝えるのではなく、病院の人員的な問題もありますが、お母さんが授乳しやすいよう医療者や周囲の人が支援することが大事です。例えば授乳時に子供を母親の胸元まで連れていく、適切な授乳姿勢を教える、搾乳の仕方や電動搾乳機の使い方を教える、必要な薬を投与する、などの対応が必要だろうと思います。

「母乳育児をしないといけない」風潮の問題

周囲の支援があっても、心身ともに可能であっても、母乳育児をするかどうか、どこまで頑張るかは、当事者……つまりお母さんが決めることです。現在「母乳育児をしないといけない」という風潮が広まり、母乳を与えないと周囲の人から「よくない母親」「努力不足の母親」かのように言われたり、はっきり言われないまでもお母さん自身が気にしてしまいがちなことは問題です。