また母乳は「完全栄養食」と言われがちですが、じつはそうではありません。母乳にはビタミンK、ビタミンD、鉄が多くないので、不足しているようであれば補う必要があります。ビタミンKが不足すると「新生児メレナ」や「新生児出血性疾患」、ビタミンDが不足すると「ビタミンD欠乏症」や「くる病」、鉄分が不足すると「母乳性貧血」などになる危険性があるのです。

育児用ミルクには「誰かが飲ませられる」メリットがある

では、育児用ミルクはどうでしょうか。じつは粉ミルク・液体ミルクには、母乳で不足しがちな栄養素があらかじめ調整されて入っています。ですから適切な量を与えていれば、何かの栄養素が不足することはありません。

他にも育児用ミルクには、母親がなんらかの理由で母乳を与えられない時でも、誰かが飲ませることができるという大きなメリットがあります。例えば、母乳育児中のお母さんが疲労で授乳できず、冷凍母乳のストックもない時、お父さんや他の家族が育児用ミルクを与えれば、お母さんはゆっくり休めるでしょう。

産後すぐの女性は、ホルモンバランスの変動や睡眠不足、疲労などによって「産後うつ」になり、場合によっては命を失うこともあります。母乳育児に一生懸命になるあまり、お母さんの心身の健康が損なわれないよう気をつける必要があるのです。

哺乳瓶
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母乳育児か、育児用ミルクを使うかはお母さんが選択すべき︎

母の体調や心理状態、赤ちゃんの全身状態、また社会的な事情や支援の多寡はそれぞれに異なります。だからこそ、母乳育児をするのか、育児用ミルクを使うのかは、それぞれのお母さんが選択すべきです。そして子供にとって育児用ミルクは、最善でなくても必要不可欠なもの、多くの場面で欠かせないものだといえるでしょう。

それなのに、今の産科で育児ミルクの話が出ることが少ないのはなぜでしょうか。「母乳育児に力を入れています」は売りにできますが、「育児用ミルクも躊躇ちゅうちょなく飲ませます」というのは、現代ではよい印象にならないからかもしれません。

近年は、液体ミルクが発売されました。外出先で粉ミルクの調乳ができない時にも、災害時の備蓄にもよいですね。以前、SNSで「災害時こそ、道具の必要がなく衛生的にも優れている母乳がよいのだから、備蓄よりも母乳指導が優先」という意見を見かけました。どちらも同時に行えばいいようですが、まあ正論かもしれません。