日本に進出する海外ベンチャーを狙え

デジタルシフトというのはその言葉のとおり、もともとあった製品やサービスがデジタルに「シフト」していくということです。

そこにはテクノロジーが必要であり、旧来の仕組みに縛られずにやることが重要な場面もありますが、一方で旧来の産業の中で培われてきたオペレーションなどのノウハウがあることが前提となる場合も多いわけです。

そこに「昔ながらのノウハウ」を持っている人材が活躍できる余地があるのです。

特に今、衰退しつつある産業では今後のDX化が見込まれるでしょうし、これまでのノウハウをデジタル化する必要がある場面では、旧来型の仕事をしてきた人たちのノウハウへのニーズも高まると考えられます。

シリコンバレー発の会社でなくても、ここ5年ほどの間で日本の状況も大きく変わって、スタートアップが生まれやすい環境が整ってきていますから、同様の動きが活発化することは間違いありません。

実は今、世の中にはこれまでのキャリアを活かして「一攫千金」も狙える、ワクワクするようなチャンスがたくさんあるのです。

もちろん、そのチャンスをつかんで環境を変えれば、新たなエクスペリエンスとラーニングがみなさんを成長させ、今後の転職市場での価値を高めることにもなるでしょう。

新たな環境での学びには努力が必要であり、当然、苦労することもあると思いますが、それでもチャレンジする価値は高いと思います。

転職が少ない業界の人ほど転職すべし

私は日本に帰って人と話す機会があると、よく「転職が少ない業界ほど、今転職したほうがいい」と言っています。

たとえば、自動車業界です。

ガソリン車から電気自動車へと根本的な機構が変わりつつある中、自動車産業の心臓部であった内燃機関が不要になる時代も迫っています。

充電ステーションで充電する電気自動車
写真=iStock.com/Дмитрий Ларичев
※写真はイメージです

かつて自動車というのは技術力のある大手自動車メーカーしか作り得ないものでしたが、電気自動車の普及によって、そのような構図は大きく変わると考えられます。

一方で、自動運転のテクノロジーは着実に進化を遂げており、自動車産業の軸足はハードウェアからソフトウェアへと急速に移ってきているわけです。

このような背景から、アメリカでは自動車業界からソフトウェア業界に転職する人が増えています。ソフトウェア業界からすれば、自動車業界のニーズを把握して開発を進めていくとなれば、自動車メーカーなどで働いてきた人に入ってもらうのが手っ取り早いでしょう。

また、自動車業界は大手自動車メーカーを頂点とした閉鎖的なネットワークの中に、限られたプレイヤーしかいなかった状況です。ソフトウェア業界の人たちがそういったネットワークに入っていこうとするとき、これまでそのネットワークの中で仕事をしてきて業界内のルールや事情をよく知っている人は、心強い先導役になり得ます。

もちろん、このような状況が永遠に続くわけではありません。

今はまだソフトウェア業界に自動車業界のノウハウが持ち込まれていないため、持ち込んでくれる人材に高い価値が認められます。しかし今後、新たなノウハウが確立されるに従って、旧自動車業界の人材へのニーズは減少していくでしょう。

変革が起き始めたときに、それを察知し、リスクを取って周囲に先んじて動く人でなければ、メリットは享受できないのです。

物流業界も要チェックです。

物流はエンドユーザーに物を届ける際の最後の接点となる「ラストワンマイル」の課題解決や、eコマースへの急速なシフトによる物流への負荷を、テクノロジーによってどう改善するかといった点で注目が高まっています。

物流業界は今、さまざまなスタートアップが生まれるデジタル化の最前線ともいうべき世界になっているのです。

その一方、ものを運ぶには人の手が必要であり、デジタル化がなかなか進みにくい業界であるともいえます。

これからデジタルシフトしていくとき、アナログで物流を回してきた人材の知見は重宝されることになるでしょう。日本の大手物流業界で経験を積んだ人材は、海外のスタートアップでニーズが高まると思います。

もう一つ注目したいのは金融業界です。窓口業務のオンライン化や電子決済の普及など、急速にデジタル化が進む業界ですが、規制業界であるため、デジタル化を推進する場合には旧来型の業務の知見が必要になる場面が多いといえます。

これはアメリカでも日本でも同様の動きがあるといえますし、海外から日本に進出しようとするスタートアップについていえば、日本独自の規制について深く理解している人材は喉から手が出るほどほしいでしょう。

その観点でいえば、従来は花形とはみなされていなかったようなオペレーションを担う人材に大きなチャンスがあるのではないかと思います。