たった10年ほどでも、業界は様変わりしていた

現在、53歳になった長嶺さん。一流大学を卒業後、大手広告代理店でキャリアを重ねた素晴らしい履歴書があります。……が、その輝かしいキャリアも今や「化石」扱いで、立派ではあれど、即戦力としては使いものにならないというのです。

長嶺さんが辣腕を奮っていた広告業界はこの10年でビジネスモデルが激変。Webの知識が欠かせなくなっていました。たった10年とはいえ、コロナ禍もあり、業務のオンライン化も飛躍的に進んでいます。しかし長嶺さんは子育て中にパソコンに触れることはほとんどなく、Twitterのアカウントも持っていませんでした。

ラップトップに入力する女性の手
写真=iStock.com/Inside Creative House
※写真はイメージです

実は長嶺さん、ある80年代のアイドルに憧れがありました。大ヒットを飛ばした後、出産を機に引退したそのアイドルは、子供たちを一流校に送り出した後、40代で鮮やかに復活を遂げていました。長嶺さんはどうやら自分も“その線”で行こうとしていたようで、さすがに彼女も、「自分は一般人だったわー」と苦笑いしていました。

復職したけれど「昔ほど仕事をもらえない」

長嶺さんの場合、復帰の理由は「生きがい」でしたが、多くの場合、経済的な理由で仕事に復帰せざるを得ないのではないでしょうか。漫画家の池澤優さん(仮名/48歳)はまさにそのケースです。

41歳で出産した池澤さんは産後、仕事量をぐっと絞り、子育てに専念してきました。ただ年収600万円で10歳上の夫との今後を考えると片働きを続けさせるわけにもいかず、お子さんが小学生になった今、仕事を広げようとしていました。しかし、昔のような仕事量をもらえず、焦りを感じていると言います。

池澤さんの場合、月数万円程度のカット仕事は細々と続けていました。積み上げてきた仕事の腕は評価されていましたが、どうやら今のトレンドとはマッチしないようで、「アップデートがうまくできないままここまできてしまった」と話していました。

長嶺さんのように家計に余裕がない池澤さんは、子供の教育費のために早く仕事を見つけたいと、近くのコンビニで働くことに。しかし、もともと働いていた外国人や大学生の方が夜勤などの融通がききやすかったことで、シフトにほとんど入れない日々が続いているそうです。

ちなみに、長嶺さんも家の近くのお弁当屋さんに面接に行ったそうですが、コロナ禍もあって人手は足りていると、門前払いにあったそうです……。

結果は厳しいものでしたが、華麗なキャリアを持っているにもかかわらず、そこに固執しない2人の姿勢は素晴らしいと思いました。かつて華々しく活躍した人ほどプライドが高く、仕事をより好みしやすいので……。