ドル、ユーロ、元の間に起きているミスアライメント

「ドル、ユーロ、元と国際通貨制度」をテーマにしたセッションでは、フェルドシュタイン(ハーバード大学)やケネン(プリンストン大学)やマッキノン(スタンフォード大学)といったアメリカ経済学界の大御所がそれぞれに国際通貨体制に関する見解を披露した。昨今の世界金融危機と世界同時不況、そして、これらに先行して問題視されていたグローバル・インバランスのなか、世界の主要通貨、ドル、ユーロ、元(そして円)のそれぞれの為替相場のボラティリティ(変動性)が高まると同時に、これらの通貨間のミスアライメント(ファンダメンタルズ水準からの大きな乖離)が起こっている。07年以降のサブプライム・ローン問題、リーマン・ショック、そして世界同時不況のなか、連邦準備銀行、欧州中央銀行、日本銀行など主要国の中央銀行が、タイミングを同じくせずして金融緩和政策、さらには量的金融緩和を採用したことによって、あたかも通貨安競争をしているかのように、ドルやユーロの通貨安が波状的に引き起こされ、一方で、円が独歩高となっている。また、そのことがこれらの通貨間の為替相場を乱高下させるだけではなく、中国人民銀行による、減価傾向にあるドルに元を固定させたり、ある程度の安定性を確保する外国為替市場への介入が行われたことも相俟って、元も含めて、これらの通貨間のミスアライメントが起こっている。

このような通貨間のミスアライメントがグローバル・インバランスにもつながっているという認識の下に、フェルドシュタインは、元の実質為替相場の調整の必要性を説いている。実質為替相場に対する輸出・輸入の反応度が本当に高いのかという弾力性に対する悲観的な見方もあるものの、元の実質為替相場の調整によって中国の貿易不均衡、さらには、グローバル・インバランスが是正されよう。実質為替相場は、名目為替相場を中国の物価と貿易相手国の物価でデフレートしたものであるから、名目為替相場に直接的に働きかけて実質為替相場を調整するか、あるいは、名目為替相場を固定させているのであれば、外国為替市場への介入の結果として国内の貨幣供給量が増大し、それによって国内の物価が上昇して、実質為替相場を調整するしかない。現在、中国政府と中国人民銀行は、後者の選択肢を選んでいるため、昨年後半より、中国におけるインフレ率が急上昇した。

一方、マッキノンは、世界各国が事実上のドル本位制を実施することによって、すなわち、世界の通貨当局が自国通貨をドルに固定させることによって、ドルに対する為替相場の安定化とともに、ドル以外の通貨間の為替相場の安定化が図られてきたとして、事実上のドル本位制を評価した。とりわけ、アジアにおいては、ブレトンウッズ体制崩壊以降も事実上のドル本位制が続いていたことを指摘している。それに対して、アジア各国が、貿易相手国の構造的変化(対アメリカ中心の貿易構造から生産ネットワーク確立のなかでのアジア域内貿易の重要性の高まり)が起こりつつあったにもかかわらず、事実上のドル本位制を続けてきたために、1997年にアジア通貨危機に陥ったというのは、有名な話である。