私が中学生の頃1年間放送されていたアニメ『母をたずねて三千里』は名作である。その中で、人形劇師が大道で上演する人形劇に、ガリバルディものがあった。オーストリア帝国と戦い、イタリアを統一して、それをヴィットリオ=エマヌエーレ二世に譲る国家統一の英雄である。イタリア統一は明治3年(1870)、ガリバルディは1882年まで生きた。だから、明治初期の日本で、ガリバルディは、ナポレオンやジョージ・ワシントンと並ぶ、西洋の偉人として知られていた。だが、ガリバルディの名は次第に忘れられていく。というのもガリバルディが「共和主義者」だったからであろう。本来イタリア大統領にもなるべきガリバルディは、サルデーニャ王国の国王だったエマヌエーレにイタリアを譲ったという、謙譲の美談が伝えられていたのである。
戊辰戦争に敗北した会津の出身である柴四朗は、東海散士の名で政治小説「佳人之奇遇」を長々と書き続け、当時の青年たちは熱狂してこれを読んだ。東海散士は主人公の名でもあって、薩長の圧政に苦しむ旧幕府派として、イスパニアや清朝でやはり革命や独立を目指す青年、あるいは美女たちと協力しあう冒険小説でもある。その中で主人公たちは、今なお英雄として名高いガリバルディを訪ねて協力を仰ごうと話し合うが、そのうち、ガリバルディの死が伝えられ、彼らは失望する。ガリバルディは同時代人だったのである。
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