シェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』は、題名こそカエサルだが、主人公はブルータスである。第一次三頭政治ののち、ライヴァルのポンペイウスを倒し、独裁の道を歩み始めたカエサルが、ルビコン川を渡っての戦いに勝ち、ローマ市民の声望も高く、いよいよ「王」になると聞いて、ローマの伝統的な、元老院による共和政治を、カエサルの専制政治にしてはならぬと、キャシアスらとともに、カエサルを白昼堂々、刺殺する。「ブルータス、お前もか」と、自分の味方だと思っていたブルータスに裏切られたカエサルが発したとされる台詞は有名だが、これは別のブルータスのことらしい。
英雄カエサルが殺されたと知って、騒ぐ市民たちを前に、ブルータスは堂々の演説をして、カエサルが専制君主になろうとしていた、と述べる。だが、その後登壇した、カエサル派のアントニウス(アントニー)は、一種の弁論的(詭弁)を駆使して、カエサルがいかに立派な人物であったかを市民らに納得させ、形勢は逆転して、アントニウスと、カエサルの養子オクタウィアヌスの連合軍は、ギリシアのフィリッピの野で、ブルータスとキャシアスの連合軍を打ち破り、遂に、のちオクタウィアヌスが皇帝となり、ローマの共和制は終わりを告げるのであった。
この演説の箇所は、高校の時の現代国語の教科書に載っていて、その後に、「説得について」という文章があり、いかにアントニウスの説得術が優れているかが書かれていた。しかし、あとになって考えたら、誠実なブルータスが、言葉巧みなアントニウスにしてやられたという話であって、高校でそういう教育をしていいのか、と憤りを覚え、その後、ブルータスは私の中で、敗北した英雄となっていったのである。
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