「全員死亡、目撃証言ゼロ」では事故原因はわからない

今回の観光船事故の場合、海上で発生した事故で、事故現場の資料がなく、乗客・乗員全員が死亡あるいは行方不明で供述が得られず、目撃者もいない。

遭難した観光船が海底から引き揚げられれば、事故の原因はある程度推測されるであろうが、船長のどのような行為がどのように沈没につながったのかが明らかにならないと、事業者側が、そのような船長の行動を予見し、事故を回避すべきだったとすることは困難だ。

桂田社長は、出航の判断を自分が行ったことを認めているが、船体の損傷などの外的要因ではなく、高波による浸水が事故原因と特定され、強風・波浪注意報発令中に出航したことが事故に直結した原因と言えるような場合でなければ、出航したこと自体の過失で事業者側を業務上過失致死罪に問える可能性は低い。

「軽井沢バス事故」でも安全管理が問題になったが…

本件と同様に、多数の乗客が犠牲になり、運行事業者側のずさんな安全管理が厳しい社会的批判を浴びたのが、2016年1月に発生した軽井沢バス事故だ。この事故では、大学生らのスキー客を乗せたバスが下り坂でカーブを曲がりきれず崖下に転落。15人が死亡、26人が負傷した。

長野地検は事故から5年後となる2021年1月、運行会社「イーエスピー」の社長と、運行管理者だった元社員の2人を業務上過失致死罪で在宅起訴している。

バス車内
写真=iStock.com/OliverHuitson
※写真はイメージです

事業用自動車事故調査委員会は、「大型バスの運転に不慣れで山道の走行経験も十分でない運転手が、速度超過でカーブを曲がりきれなかった」と指摘しており、検察側は、運行管理者について、「死亡したバス運転手が大型バスの運転を4年半以上していないことを知りつつ雇用し、その後も適切な訓練を怠った」、社長については、「運転手の技量を把握しなかった」と主張している。

これに対して、被告側は、「死亡した運転手が技量不足だとは認識しておらず、事故を起こすような運転を予想できなかった」と起訴内容を否認し、無罪を主張している。