船長か社長か…誰に刑事責任を問えるのか

このような事故で、業務上過失致死罪の刑事責任の主体となり得るのは、事故の直接の当事者と、観光船事業者「知床遊覧船」の安全管理責任者だ。

前者は、観光船「KAZU I」の船長だが、いまだ行方不明であり、生存の可能性は低い。処罰の対象になるとすれば、後者であるが、今のところ、名前が出ているのは、海上運送法に基づく「安全統括管理者」の桂田精一社長だ。

業務上過失致死罪は、(1)「人の死亡」という結果の発生、(2)(予見可能な)結果を回避するための注意義務に違反したこと(過失)、(3)「過失」と結果の因果関係、という3つの要件が満たされた場合に成立する。

今回の事故では、少なくとも、乗客14人について既に死亡が確認されており、(1)の「人の死亡」という結果が発生したことは明らかだ。

(2)の「過失行為」については、強風・波浪注意報の発令後に出航したこと自体が危険な行為であり、その危険が現実化し、事故に至ったことは確かである。

(3)の因果関係についても、単純な「条件関係」で言えば、出航しなければ事故は起きなかったのであるから、因果関係があるということになる。

本当に「クジラが事故原因」であれば過失は問えない

しかし、業務上過失致死罪においては、「原因行為から結果発生までの因果の流れ」が明らかになり、それによって、人の死亡という結果が発生することについての予見可能性と、結果回避すべきであったのに、その義務に違反したことが「過失」の要件となる。

そういう意味では、事故に至る経過が明らかになり、事故の原因が特定されないと、「結果」と「過失」の因果関係があるとは言えない、というのが一般的な解釈だ。

桂田社長が説明しているように、波が高くなったら引き返してくる「条件付出航」だった場合、出航自体の判断より、「引き返す判断の遅れ」などの出航後の船長の対応が事故の直接の原因だったことになる。また、何らかの外的要因によって船体が損傷したことが沈没の直接の原因だったとすると(桂田社長は「クジラに突き上げられて船体が損傷した可能性」を指摘していると報じられている)、出航自体は、事故の発生につながったとは言えないことになる。