「説得力のある文章」を書くにはどうすればいいのか。ライター・作家の奥野宣之さんは「婉曲は読み手に負担をかけてしまうので避けたほうがいい。抽象的な言葉ではなく、『見たまま』『聞いたまま』『感じたまま』を書くことが大切だ」という――。

※本稿は、奥野宣之『心をつかむ文章術 無敵の法則』(アスコム)の一部を再編集したものです。

オフィスで問題を解決する2人のビジネスマン
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断定を避けたがる、“オトナな文章”は読みにくい

「ビジネス用のスーツは紺色がいちばんだと思います」という書き出しで文章を始めると、次のような声があるかもしれません。

・いやいや、グレーのほうがいいと思う
・色より素材のほうが重要でしょ
・紺イコール無難、という考え方は古くさい
・おまえは葬式も紺色で行くのか?

そこで、先に反論を封じておきましょう。すると、こんな文章になりました。

グレーのほうが好きだという人もいるだろうし、色より素材という考え方もある。また、いかにも無難なものを選ぶ古くさい考え方だと思われるかもしれないけれど、ビジネス用スーツは紺色がいちばんだと思っている。もっとも、葬式など特別なケースを除いての話だが。

はい、「何が言いたいんだ? コラ!」という文章ができあがりましたね。

奥野宣之『心をつかむ文章術 無敵の法則』(アスコム)
奥野宣之『心をつかむ文章術 無敵の法則』(アスコム)

「自慢じゃないが」「私だけの話と思われるかもしれないけれど」といった短いものから、「○○という人のために説明しておくと……」という長い一節もあります。

こういった“先まわり”の言い回しを、軽はずみに使ってはいけません。必然性のないところで使うと、たいてい言い訳じみた自信のない文章になります。

ただし、すべての“先まわり”が悪いわけではありません。文章を作っていて、「ほとんどの人はこのへんに引っかかりを感じるだろうな……」と思ったときは、「ここで、『それって○○なのでは?』という声に答えておこう」と、きっちり説明しておくべきでしょう。

違和感を抱えたまま「いつ答えてくれるんだろう?」と気にしながら読み続けていると、読み手は疲れてしまうからです。

「予防線」を張った文章はNG

読み手に優しい、適切な“先まわり”ならば、むしろやったほうがよい。

では、「ビジネス用のスーツは紺色がいちばん」にあれこれ書き加えた文章の“先まわり”はどうでしょう? こちらは親切心からの“先まわり”ではありませんね。

自分が反論されたくないから、あらかじめさまざまな「声」が飛んでくる可能性を潰しておくための“先まわり”。いわば「予防線」と呼ぶべきものです。