優先順位をイメージづける「栄養ピラミッド」

摂取すべき栄養素には、優先順位があります。それをわかりやすく図にしたのが、図表1の「栄養ピラミッド」です。このピラミッドの考え方は、ブログ「パラダイムシフト好きの外科医のblog」にある「治療のピラミッド」から発展させたものです。考え方の優先順位をイメージしやすいので、ヒントにさせてもらいました。

栄養ピラミッド
出典=『糖尿病の真実』(光文社新書)

この図表でいうと、ピラミッドの土台はタンパク質と脂質です。これらが十分に足りている状態で、はじめて上に位置する鉄、さらに上部のビタミンやミネラルがしっかり吸収できるようになります。

たとえば、タンパク質不足がひどい場合には、ビタミンやミネラルを胃が受けつけることができず、かえって食欲不振になったりします。胃も胃壁も胃の中で働く消化酵素も、すべてタンパク質を材料としているからです。材料が不足していると、胃が十分に機能を果たせなくなってしまうのです。だから、優先順位が大切になってくるのです。

脂質を優先する食事方法もあり、おすすめすることも多くありますが、糖尿病の場合にはタンパク質不足であることがほぼ確定的です。脂質優先の食事は、タンパク質不足が解消してからの方が健康的です。

国民総鉄不足の日本人

本来は、鉄はミネラルの一種ですから、このピラミッドでいうと一番上に含まれることになります。しかし、わざわざ別にしているのは、他のミネラルよりも優先順位が高いからです。

欧米などの諸外国では、小麦粉などへの鉄の添加が法律で義務づけられています。他にも、ベトナムでは調味料のナンプラーに、モロッコでは塩に、中国では醤油に鉄添加が行われています。各国が、貧血の予防のために国策として鉄添加を行っているのです。

しかし、日本では、こうした国策として鉄を添加する、ということは行われていません。その結果、多くの国民が鉄不足に悩まされています。しかも、それは貧血と認識されていないことも多々あります。

貧血といえば立ち眩みや顔色が悪いなどの症状が有名ですが、それだけではありません。いつも疲れている、眠れない、血圧や体温が低い、原因不明の頭痛、甘味依存、糖尿病、肥満、マタニティーブルー、発達障害、うつ・パニック、がんなど、鉄不足がもたらす心身への悪影響は数限りなくあります。

鉄不足は、鉄を補充しない限り、未来永劫に治りません。それと同時に多くの人が、自分の鉄不足に気がついていません。このため鉄の重要度を強調すべく、栄養ピラミッドでは他のミネラルから独立させ、より基礎的な箇所に位置づけしました。