しかし、他の問題も含めて監査法人トーマツの監査は困難な点が多かったと思われる。
たとえば、株式で返済をした場合など、その評価計算が難しいはずで、関連当事者との間の無償取引や、低廉な価格での取引については、独立した第三者と取引した場合の金額を見積もったうえで重要性を判断し、開示するかどうかを決める、という規定もあったりする。
前会長が関連会社から巨額の借り入れを行っている時点で異常とも感じられるし、監査人が取引を不明瞭だと考えれば、その内容を財務諸表に開示すべきかを検討できたかもしれない。
今回の問題に関する特別調査委員会の調査報告書では、監査法人は10年7月に貸し付けの事実を知り、経理部に尋ねたものの使途はわからず、事業活動に使用するものと推測したという。資金を貸し付けたエリエールペーパーテックにも監査に出向いており、その時点で4件の貸し付けを認識でき異常だと考えたかどうかや、貸し付け担当者から事情聴取したかは不明だ。
また、大王製紙の監査法人が受け取っていた監査報酬は6000万円。4101億円という売り上げ規模から考えると、私見だが、やや安くて監査法人にとっては厳しい条件かな、という印象を受ける。同業で売上高が2170億円の北越紀州製紙の監査報酬は9000万円だ。
このような状況のもと、監査は何人体制だったのか、貸付金の監査のプロセスや回収可能性判断の根拠はどうかなど、気になる点は多い。もし今回の監査事例が詳しく研究検討できたら、今後の業界改善・向上に役立つ資料になると思うのだが……。
参考としていくつか監査法人のトーマツに質問したものの、それに対する回答は「個別企業については守秘義務があり、コメントは控えます」だった。
(高橋晴美=構成 ライヴ・アート=図版作成)