一大スキャンダルとなった大王製紙事件。今回は監査の問題について考えてみたい。
まずおさえておきたいのが、大王製紙の財務諸表において前会長の借入金がどのように記載されていたかである。
前会長の借入金の残高は、大王製紙から見ると貸付金という資産に位置づけられる。問題はこの資産がどう記載されているかだが、2011年3月期の同社の連結貸借対照表には、それに該当する独立項目は見当たらない。実は、資産の部の中の「その他」に紛れ込んでいたのだ。
会計のルールには、「関連当事者の開示に関する会計基準」というものがある。
関連当事者とは、その会社と支配関係にあるか、財務上、業務上の意思決定に重要な影響力を有する者などを指す。具体的には親会社や子会社、関連会社、親会社の役員・近親者、重要な子会社の役員などが挙げられる。
関連当事者との取引は対等な立場で行われているとは限らず、会社の財政状態や経営成績に影響を及ぼすことがある。そのため、関連当事者との取引を財務諸表において適切な情報を提供しなければならない、と定めている。つまり、支配力のある関連当事者の取引には、会計監査上、しっかり注意を払わなければならないわけだ。
また、関連当事者に近い項目のルールとして、個別財務諸表開示にも規定がある。株主、役員、従業員に対する短期債権などの資産で、金額が資産総額の100分の1を超えるものは、「当該資産を示す名称を付した科目をもって掲記しなければならない」とされている。この点、連結財務諸表では、その他に含まれるのは総資産の100分の5以下の場合と定められている。
11年3月期における連結上の総資産は6727億8600万円。この時点での前会長への連結グループからの短期貸付金は23億5000万円であり、総資産の100分の1にも届かない。それで「その他」に紛れ込んでしまったのだ。