怒りっぽい人とそうでない人の違いは何なのか。脳科学者の茂木健一郎さんは「怒りという感情は脳の前頭前野という部位で処理される。怒りを抑えられる人は脳が発達していると言える」という――。

※本稿は、茂木健一郎『意思決定が9割よくなる 無意識の鍛え方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

電話を持って怒っている男性
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人は「怒る」のではなく「怒らされている」

何かに対して怒りが湧いたときに、果たして怒っているのは「自分」なのだろうか?

妙な質問に思われるかもしれないが、「怒り」および感情全般を脳科学的に考えたときに、本質はこの質問に集約されていると言ってもいい。例えば、お腹が空いてご飯を食べるのは自分だ。体重を気にしているが、デザートにケーキを食べてしまうのも自分だ。しかし、そんな自分に対して込み上げてくる怒りは、どこから発するのだろうか。

怒りを例えて言うなら、「お腹が痛い」という現象に近い。お腹が痛くて薬を飲むのは自分の意志だが、お腹が痛いのは自分ではどうにもならない。それと同じように、怒りも「怒ろう」と思って発生するものではない。自分が怒るというよりも、自分の中の別のものに「怒らされている」という感覚でいるとわかりやすい。

そういう意味では、感情は極めて無意識の領域に近いところに存在し、無意識の消息を伝えてくれるものでもある。

感情のメカニズムを知ることは良好な人間関係につながる

近年、この感情をいかにコントロールするかが重要なテーマになっている。ポジティブな感情に満たされているときならいいが、ネガティブな感情に支配されているときは、パフォーマンスにも悪影響が出る。普段やっている簡単な作業をしくじったり、大切なところで判断ミスをしたりして、さらなる感情の悪ループに陥ることも珍しくない。

当然、人間関係においても感情の置き所は重要だ。怒っているときに勢いまかせで言った言葉に、「なんであんなこと言っちゃったんだろう……」と後悔した経験は誰にでもあるだろう。そうした負の感情やストレスと上手に付き合っていくために、昨今ではアンガーマネジメントが随分と話題になっている。

なんのために感情が生まれるのか、どのように生まれるのか。

あの人はいつも穏やかなのに、なぜ自分はこんなにも怒りっぽいのか。

感情というメカニズムを俯瞰して眺めることで、それをコントロールするための重要なヒントを見つけられるかもしれない。

そこでここでは、立ち返って、そもそも感情とは何なのかを考えてみたい。