自動車販売店のクルマを洗う仕事をする要介護の人々も

ある日の午前11時。「アクティブキッチン一歩」を訪問すると、6人の高齢者が、テーブルいっぱいに並べられた弁当の容器に向かっていた。調理は調理師の資格を持つスタッフは行うが、出来上がった料理を弁当容器に詰める仕事をしているのだ。

役割分担があり、この日の主菜である照り焼きチキンを盛りつける人、そこにソースをかける人、つけ合わせのニンジンやブロッコリーを添える人、副菜のマカロニサラダや煮豆などを紙カップに量をそろえて詰める人……とそれぞれ与えられた役割を手際よくこなしていく。

ショートパスタのサラダ
写真=iStock.com/Marco Catracchia
※写真はイメージです

「お弁当づくりの仕事をされている方は30人ほどいらっしゃいます。デイ・サービスに来る曜日が人によって異なりますので、曜日ごとに6~7人の方に、キッチンに来ていただくようにしています。その中には認知症の方も含まれているんですよ」(阿部さん)

阿部さんがアクティブキッチンを思いついたのは、デイ・サービスの利用者の様子を見ていた時のある“気づき”がきっかけだ。

「私は2011年に『リハビリホーム一歩』というデイ・サービスを開設しました。電車に乗る練習をしたり、買い物に行ったりというリハビリを重視していますが、形態としては通常のデイ・サービスです。そこで利用者さんの様子を見ていたところ、受け身でサービスを受けるだけでなく、自ら動こうとしておられる方が何人かいらっしゃったんです。お昼ご飯を食べ終わったら、食器を片づけようとしたり職員の手伝いをしようとされたり。自ら積極的に動きたい、できることはしたいという思いを持っている方が多いことを実感しました」

阿部さんは理学療法士だ。デイ・サービスの事業所を開設する以前は病院でリハビリを担当していた。

「リハビリは機能回復のための運動はもちろん、ご本人の“よくなりたい”という前向きな気持ちが大事です。そうした意欲を自然にかき立ててくれるのは“仕事ではないか”、と思ったのです」

とはいえ、デイ・サービスの利用者に仕事をしてもらうなどといったことは阿部さん自身、イメージできなかった。

「そんな時、東京・町田市に利用者に仕事をしてもらう試みをしているデイ・サービスがあることを聞いたんです。早速、連絡を取って見学させてもらいました。そこで利用者さんがしていた仕事は隣接する自動車ディーラーが販売するクルマの洗車です。みなさん、生き生きと働いておられました。時間はかかりますが、クルマがピカピカになるまで丁寧に仕上げるのでディーラーの方も喜んでいましたし。働かれた方は体を動かすことでリハビリの効果があるし、対価としての謝礼を受けられる。ウィン・ウィンの関係にあったわけです」

実例を見て意を強くした阿部さんは、自分のデイ・サービスにも利用者に仕事をしてもらう場を設けることにした。仕事として選んだのが弁当づくりだ。

「ウチでは2つのデイ・サービス事業所を運営しており、昼の食事は外注していたんです。料理は高齢者向けに塩分や脂分は控えめにする必要があるのですが、外部の業者では要望通りにはいかないこともあります。だったら食事は自前で作ってしまおう、そのお手伝いを希望する利用者さんにしてもらえばいいのではないか、と思ったのです」