86歳の老人性うつの女性「働いて病気が治った」

当初は調理もしてもらうつもりだったが、大量の料理をつくるのはやはり難しく、盛りつけや洗いものに従事してもらうことにした。ここに参加している方は、朝9時半にデイ・サービスに到着。健康のチェックや体操などをする。その間に専門のスタッフが仕込みをし、調理開始、利用者は10時半にキッチンに来て12時まで盛りつけの仕事をするという。

「つくるお弁当は約100個。その盛りつけをする1時間半ほどの立ち仕事をしていただくことになります。盛りつけは少しずつ場所を移動しながら行いますからバランスを取る必要がありますし手も使う。また、分量を均等にして、おいしそうに見せるために頭も使います。その一つひとつの動作や気づかいが良いリハビリになるんです。また、認知症の方もおられると言いましたが、問題なく仕事をされています。認知症だから何もできない、と決めつけるのがよくないのであって、ここにこう盛りつけてくださいと言えば、ちゃんとできるんです。うまくできた時は本当にうれしそうな笑顔になられます」

立って盛り付けをするデイサービス利用者たち
撮影=相沢光一

もちろん転倒事故などがないように細心の注意は払っている。フロアはフラットで無理なく動けるようにしているし、専門の介護スタッフが常につき添い、体調の異変などないかチェックしている。

100人分の弁当の他に自分たち用の弁当もつくり、それを一緒に仕事をした人たちと食べるのも楽しみのひとつだという。食事を終えると通常のデイ・サービスに戻り、レクリエーションや散歩などをして過ごす。なお、ボランティアではあるが無料奉仕ではなく、ささやかな額ではあるが謝礼が支払われる。その報酬は月に1度、仲のよい人たちで外食する費用に使われることになっているという。

ひと通りの仕事が終わった後、参加していた人に話を聞くことができた。

86歳の南雲淑子さんはアクティブキッチンが開設された2017年から参加しているという。

「私は仕事をリタイアした後も、ボランティアで折り紙の講師をしていました。働いていないといられない性質なんです。でも、主人が亡くなって七回忌が済んだ頃、老人性のうつ病になって家から出られなくなり、要介護になってしまいました。そんな私を救ってくれたのが、このアクティブキッチンです。ここには仕事という目的になるものがありますし、みなさんに交じって役割を果たすことがうれしい。ふさぎ込んでいた気分がいつの間にか晴れました。たぶん、お世話されるだけの普通のデイ・サービスに行っていたらうつは治らなかったのではないでしょうか。アクティブキッチンのおかげで本来の自分に戻れたと思っています」