「俳優を雇って演じさせている」と互いに非難
また西側の一部の報道では、ドネツク州でロシア軍から人道支援物資を配られて喜んでいる住民は、みんなロシアが雇った偽ウクライナ人で、インタビューに答えているのは俳優だと言います。
そしてロシアも西側の報道に対して、同様の指摘をしています。
ウクライナ侵攻後、ロシアの政府系テレビ第1チャンネルで「アンチフェイク」というテレビ番組を毎日放送しています。自分たちが行っているフェイクについては一切言及せず、ウクライナや欧米のフェイクを一つひとつ検証して潰していくという内容です。
西側の番組で取り上げられた、泣いて悲しむウクライナ人の写真は実は合成写真なんだとか、同じ人間がさまざまなシーンに何度も登場しているからこれは西側が雇った俳優もしくは情報機関員に違いない、などと指摘しています。
戦争が遂行されている最中において、情報が錯綜するのは仕方がありません。また当然のことですが、どちらの側も自分たちに有利な情報だけ流そうとします(その中には偽情報も含まれています)。これは、旧日本軍の大本営発表に限った話ではありません。戦時中の発表はすべて、そのまま鵜呑みにするのは危険な性質を帯びているのです。インターネットが発達し、さまざまな画像の合成や作成が簡単になった現代では、実際にフェイクも加わります。
キーウに潜入した報道カメラマンが見たもの
ウクライナで取材を続けている報道カメラマンの宮嶋茂樹さんが、『週刊文春』に写真とレポートを掲載しています。少し古くなりましたが、3月31日号に気になる情報がありました。ロシア軍が、まだキーウを包囲していた時期です。
〈今やキエフは要塞都市と化した。通りという通りにバリケードや対戦車柵、所々トーチカまで築かれ、広場という広場に地雷が埋設されようとして、家という家に武器が配られとる。ウソやないで。不肖・宮嶋が今草鞋を脱いでいる宿も最新式の武器でこてこてに身を固めたにいちゃんだらけや。〉
ロシアは「ウクライナは、住宅地区に銃火器を配置し、住民に武装させている、これは人間の盾戦略だ」と主張し、ウクライナは「そういったことは一切していない。戦闘員と民間人は分けている」と反論していました。
宮嶋さんのレポートを読むと、この点に限ってはロシアの言い分が正しかったことがわかります。その上で、あれだけの人たちを殺していることに、ロシアなりの理屈を立てているのです。つまり、民間人の犠牲は極力出さないようにしているが、ウクライナ側が人口密集地に兵器やスナイパーを隠しているから仕方がないのだ、と。もっとも、ウクライナ軍がそうしているからといっても、ロシア軍が無辜の民を殺してもかまわない理由にはなりません。