高齢者には臓器別診療は弊害が大きい

日本の医療は基本的に「臓器別診療」のスタイルをとっています。このため病気を総合的な視点から捉えるのではなく、専門の臓器の状態から診断します。

医師は「健康の専門家」ではなく「臓器の専門家」なのです。医師が「病気が治る」と言うときは、「臓器の状態がよくなる」ということです。

近年ではトータルで病気を診る「総合診療」も増えてきましたが、全体からすればまだまだ少数です。

臓器別診療は、一概に悪いとは言えません。しかし80歳を過ぎる高齢者のような場合は、悪い方向に転がるほうが多いと私は思っています。

たとえば、循環器内科の医師は高齢者に「コレステロール値を下げよ」と指導します。動脈硬化になりやすく、心筋梗塞や脳梗塞で死ぬ人が増えるからです。

脂質代謝に関する健康診断結果
写真=iStock.com/Yusuke Ide
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しかしコレステロール値を下げれば、免疫機能が低下してしまうのです。するとガンが進行したり、感染症にかかりやすくなったりします。

つまり、血管系の疾患で死ぬ人は減ったけど、ガンや肺炎で死ぬ人が増えた、ということが起こるのです。

事実「コレステロール値が高めの人のほうが長生きできる」という調査結果は多数ありますが、その逆はほとんどありません。

年を取れば、臓器の機能は全体的に低下します。ある臓器だけの治療をしても、ほかの面に支障が出てしまうことは少なくありません。「その臓器はよくなったけど、トータルでは不健康になった」ということが、往々にして起こるのです。

臓器別診療は薬の量が増えてしまう

臓器別診療の弊害は、薬の多さにも表れています。

たとえば、検査をして「血圧が高い」と循環器内科では降圧剤を出します。

「頻尿だ」と医師にかかると泌尿器科でも薬が出る。さらに「血糖値が高い」ことがわかると内分泌代謝内科でも薬が出る。専門科それぞれで薬を処方され、気がついたら15種類の薬を服用していた、ということがよく起こるわけです。

多量の薬を飲み続けたらどうなるか? 体に大きなダメージがあるのは明らかです。なぜなら、薬は毒でもあるからです。特に高齢者になるほど多剤併用の害が明らかになっています。

もちろん、飲まなければならない薬もあります。だから、すべてをやめる必要はありませんが、日常生活の活動レベルを落とさないよう、最小限の薬にとどめる。これが高齢者の、薬との正しいつき合い方なのです。