営業担当ではなく、エンジニアが製品力を伝える

テレビCMはあくまでも製品を伝えるための手段であり、他社との差別化ポイントであるテクノロジーに裏打ちされた製品力を消費者に知ってもらう内容に特化しているわけだ。

また、ダイソンの製品が高価格帯なのは、科学的アプローチをもとにテクノロジーを結集させているからであり、そのぶん高付加価値を提供することができるという。

こうした製品のユニークポイントを、コマーシャルチームやセールスチームではなく、技術者であるエンジニアが前に立って対外的に説明するのも、ダイソンの特徴だ。

「ダイソンは現在、世界中で数多くのエンジニアや科学者、研究者を率いていて、研究開発費に莫大なコストを投じています。それは、我々が常に革新的なテクノロジーにこだわり、世の中にまだないような常識を覆す製品を生み出そうと考えているからです。ゆえに、営業担当者が先頭に立って製品を売り込むのではなく、技術志向に寄せたコミュニケーションを意識し、一貫したブランドメッセージをお客様へ届けることを長年行っているのです。

まだお客様が気づかない潜在的なニーズを捉え、研究開発を進めていく。そして、そこで生まれた新しいテクノロジーはどんなものなのかを、お客様へ伝えていく。テレビCMでも、冷静に、優しい口調で製品のメリットを語りかける描写は今も昔も変わりません。こうしたダイソンらしさを徹底して貫いてきたからこそ、確固たるブランド力を築けてこられたと思っています」

非上場だからイノベーションを生み出しやすい

しかし、イノベーションはそう簡単に起こせるものでもない。

「言うはやすく行うは難し」というように、革新的でインパクトの出せる製品を開発するのは、一筋縄ではいかないだろう。

カーさんは、イノベーションの創造について「イノベーションは、お客様からのフィードバックから生まれるものではなく、飽くなき探究心と情熱を持ち続けることで生まれる」と説明する。

「お客様からいただいたフィードバックをもとに、小さなユーザー体験の改善や製品をアップデートさせる体制は当然ながら整っています。ただ、お客様の意見を反映し、製品を良くしていくだけでは真のイノベーションは生まれません。時代とともに進化するテクノロジーを深く研究したり可能性を探求したりする。そして、そこから画期的なアイデアを見出していくことが重要なわけです。ダイソンは非上場なので、株主の意向に沿うことなく、自分たちが追求したいテクノロジーの方向性を定めることができることから、イノベーションが生まれやすい土壌があると言えます」

2021年5月に発売されたダイソンのコードレス掃除機「Dyson V12 Detect Slim」。
写真提供=ダイソン
2021年5月に発売されたダイソンのコードレス掃除機「Dyson V12 Detect Slim」。世界各地で研究開発に取り組む370人のエンジニアが携わったという