9年制だから、成長スピードに合わせて丁寧な指導が可能

各教室で行われている通常授業も見せてもらった。国語や算数といった教科の授業にも、ICTは活用されている。

最初に入った教室では、国語の「ごんぎつね」を学習していた。黒板の脇には大型のモニターが設置されていて、教師がテーマを与えると、子供たちは自分の机にあるPCに意見を書き込む。正面のモニターには全員の解答が細かく分割されて表示されており、それを見ながらディスカッションするという流れだ。

ICTを活用した国語の授業。
撮影=岡村智明
ICTを活用した国語の授業。

次の教室では、自走するロボットを使ったプログラミングの授業が行われていた。紙の上に描かれたコースで、事前にプログラムしたロボット自動車を走らせ、ゴールまでの時間をチーム別に競う。実際に走らせると、なかなかコース通りには走らない。カーブの手前で曲がってしまったり、カーブを通り過ぎてしまったり。そこで走行時間や速度を変更するなど、その場でプログラムを書き換えていく。

血眼でプログラミングをしている2人の男子のそばで、ストップウオッチを持っている女子に、どうやってプログラムしているのかを聞いてみると、「私、プログラミングが得意じゃないから、時計係をやっているんです」と笑う。

全員が同等のスキルを持っているのではなく、得手不得手によって役割分担をし、また、得意な子供が不得意な子供に手順を教えるなどしながら、一つのチームを形成しているのである。

やっとゴールしたときには、全員で「やったー!」。なかなかのチームワークである。

「子供は一律ではない。個性も、成長のスピードも違います。スキルの高くない子供でも『自分もここまでできた』と実感できることが大切だと思っています。幸い、義務教育学校は9年制なので、一人一人の子供の発達段階に合わせて丁寧に指導できますから、中学生になってグンと伸びる子供も多いですね」

毛利校長のいう通り、同校の中学生の成績は年々向上しており、生徒に対するアンケートでも、「学校が楽しい」と答える子供がほとんどだという。みな、勉強にも学校生活にも高い意欲を持っていることがうかがえる。

校内にはアナログな研究発表もたくさん掲示されている。
撮影=岡村智明
校内にはアナログな研究発表もたくさん掲示されている。

「公立学校ですから、先生もICTの専門訓練を受けた人ばかりではありません。子供たちと一緒になって、手探りでやってきました。新しいツールを導入するときは、まず子供たちに渡してしまう。すると、新しもの好きの子供たちがあれこれいじりまわして、使い方を工夫し、それをみんなに伝えていくんです。先生が最後に習得している、というケースも少なくありませんよ(笑)」(毛利校長)

校内を歩いていて、気づいたことがある。学校全体が穏やかなのだ。大きな声が聞こえない。ふざけ合って叫声を上げる子もいない。先生が叱ったり注意したり、という場面には一度も出くわさなかった。小学校でよく耳にする「静かにしなさい」という先生の言葉が響かないのだ。

9学年1600人がいるのに校内は落ち着いている。
撮影=岡村智明
9学年1600人がいるのに校内は落ち着いている。

みどりの学園義務教育学校は、こうした落ち着いた環境の中、子供たちの探究心を拡大再生産することに成功しているのだろう。「この学校に入れたい」「この街に移住したい」と思わせる魅力が確かにあった。

ちなみに、つくば市は1987年の市政開始以来今日までずっと、流入人口が増え続けている。さまざまな研究・教育機関が集積して研究者が多いこと、約1時間で都内に移動できるアクセスのよさなどの要因もあるが、つくば市が「教育日本一」を掲げて、義務教育学校を増やしてきたことも子育て世代の増加につながっているのだろう。アフターコロナで働き方が変わる今、さらに人口が増えていく可能性は高い。

帰り道、駅周辺には新しいマンションが数棟、建築中だった。

(文=田中義厚)
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