貸出残高と賃金上昇の乖離が意味するもの

もう一つ気になるのが、図に示した05年をボトムにした個人向け住宅ローン残高の膨張である。この間は個人消費が落ち込む一方で、海外の景気にも不透明感が漂い、新規の設備投資に踏み切れない法人からの融資申し込みは期待薄の状況だった。そこで、数少ない稼ぎどころとして個人向け住宅ローンの貸し出しに各金融機関が一斉に走ったのだ。

しかし、そんな甘い水に吸い寄せられた個人の懐具合がどうであったかというと、これが実に厳しい状態だった。同図の平均給与の伸び率を見てわかる通り、横ばいを続けているのだ。そうなると、かなり無理な貸し出しが水面下で行われていたのではないかという疑問が浮かぶ。実際に次のような証言もある。

「極端な例だが、年収300万円の人に3000万円の住宅ローンを組ませた銀行がある。数年後に借り主が破綻するかもしれないと担当者はわかっていたが、目先の営業成績をあげることのほうが大切だったようだ」(不動産業者)

すでに無理な貸し出しを行ってきた金融機関の危機感が一部で表面化している。住宅金融支援機構がまとめた「平成21年度 民間住宅ローンの貸出動向調査」のなかで、懸念する住宅ローンのリスクとして、「景気低迷による延滞増加」と答えた金融機関が全体の87.8%を占めてトップに躍り出たのだ。ちなみに20年度トップだった「金利競争に伴う利鞘縮小」は75.5%で2位に後退した。