債務者が「マイホームを手放しても構わない」と考えるのなら、一挙に住宅ローンを含めた債務を清算して、人生をリセットする「破産」がまず考えられる。
もっとも、破産を申し立てただけでは債務はチャラにならない。破産手続き開始が決定されると、日用生活品以外の換価可能な財産があれば、総額99万円を超える部分につき、破産管財人の下で換価処分してお金に換え、債権者に配分する。それを終えてから免責手続きを経て、免責決定が下されてはじめて返済する義務が消滅する。
この破産について銀行やローン会社の債権者の立場から検証してみよう。先に指摘したように、競売で債務者の住宅を換価交換するにしても、落札額が時価を下回ってしまう。また、破産手続き中の任意売却の場合、破産管財人への協力金として売却額の数%が引かれ、やはり経済的メリットは小さくなる。中小企業金融円滑化法との関係も気になるところだ。
住宅ローンの契約書には多くの場合、数カ月(旧住宅金融公庫は6カ月)滞納すると残りの債務を一括請求する条項が含まれている。しかし、すぐに実行に移して債務者を追い込まないのも、そうした理由があるから。よほどの事情がない限り、抵当権を実行して競売を申し立てるまで、数カ月くらいかけるのが通例だ。
ここで一つ大きな疑問が浮かぶ。「マイホームを手放すことを決意し、競売や任意売却しても、オーバーローンで残った債務はどうなるか」と。ビジネスマンの場合、ほかに売れる財産といっても中古の自動車や家電製品くらいのもの。ほとんど二束三文か換価が許されない生活用品であり、焼け石に水だろう。
競売や任意売却をしたら、同時に抵当権もなくなる。つまり、住宅ローンの残債務も無担保の一般債務となる。だから個人再生を申し立て、一括して債務を大幅にカットすることも可能になる。ただし、5年以内で返済できるメドがつけられることが条件。オーバーローン状態で親類に任意売却して住み続け、住宅ローン特則を利用せずに個人再生する方法も、これと同じ考え方に基づいている。
そうはさせまいと、債権者が競売や任意売却後に無担保となった住宅ローンの残債務について「強制執行受託文言付公正証書」を交わすよう求めてくることもありえる。しかし、この証書を交わしてしまうと、裁判所の判決なしに虎の子の給与を差し押さえられる可能性が高いので、話があっても拒否しておきたい。
もちろん、この段階で破産を申し立てる道もある。しかし、プライドがどうしても、それを許さない。かといって、収入をダウンさせて個人再生しようにも期限内には返済できそうにもない。そうした場合には、返済の意思を示しながら、個別に債権者と交渉をして任意整理する。