潜在失業者が直面する住宅ローン破綻の危機
そうした金融機関の懸念が現実のものとなるかを占うキーポイントが、借り手の雇用や賃金の動向だ。特に個人向け住宅ローンを組んでいるメーン層の正規雇用者の動向を注視していく必要がある。そうしたなか「家計を支える雇用と賃金が重大な局面を迎えようとしている」と指摘するのが第一生命経済研究所の永濱利廣主席エコノミストだ。
2009年末に発表したレポートで永濱主席エコノミストは、雇用調整助成金で抑え込まれた「潜在失業者」の存在に注目。2009年9月時点で同制度の対象となっている労働者は大企業で47万人、中小企業で152万人である。そして、政府による賃金負担分の労働者が「企業内失業」の状態にある潜在失業者だとすると、「実質失業率」は10月時点で7.9%と推計した。ちなみに総務省の労働力調査による同月の失業率は5.1%である。
もっとも、雇用調整助成金の支給限度日数は300日と決まっている。「海外経済が持ち直して輸出が回復すれば、2010年の前半まで失業率は5%の半ばくらいの高止まりですむだろう。しかし、その前提が崩れると潜在失業者が顕在化して、失業率を押し上げる恐れがある」と永濱主席エコノミストは指摘する。
また、前回の02年からの景気回復期を見ると、賃金が改善に転じたのは2年半後でタイムラグがあることを指摘したうえで永濱主席エコノミストは、「今回、賃金が改善されるのは早くて11年に入ってから。賃金の水準は88年の水準にまで落ち込むことも考えられる。そうなると家計における住宅ローンの負担感はさらに重くなり、苦しむ人が増えるのではないか」と警告する。
これまで住宅ローンというと、どうしたら有利な条件で借りられるかといった“入り口政策”ばかりに目が向いていた。確かに、そのことも大切だ。しかし、今後はどう賢く返していくか、さらに家計が苦しくなったらどうするかという“出口政策”がより重要になるだろう。
※すべて雑誌掲載当時