VR自転車なら宇宙空間も走れる

「さあ、いくよ!」

先頭の女性トレーナーがそう叫び、私もペダルを踏んだ。VRといってもHMDを装着せず、前方のスクリーンを見る。暗い室内に映し出された道をみんなで走行するのだ。映像はアメリカの地方都市のようで、ビルの間を進んでいく。臨場感過剰タイプの私はたちまちその世界に没入し、道が曲がるとそのまま体も傾き、自転車から落ちそうになった。

VRサイクルでトレーニングする人
写真=iStock.com/Edwin Tan
※写真はイメージです

「さあ、ギア上げていくよ!」

のぼり坂に入るらしく、手元のギアを上げてペダルを重くする。重いから上り坂を実感できるというわけで、一生懸命漕いでいると、今度は一転下り坂になり、私は反射的に足を止めた。基本的に下りではスピードをゆるめる。むしろブレーキをかけるべきだからだ。そしてしばらく足を止めているうちに気がついた。

漕がなくても進んでいる。

上りであろうと下りであろうと画面上は進んでいる。ずっと下りのようなもので、最初から漕ぐ必要はなかったのだ。こんなに楽なサイクリングはないと鼻歌気分でいると、道はやがてビルを越えて空中へと向かい、しまいには宇宙空間へ。高所恐怖症の私はびっくりして、自転車上でうずくまった。

かくして40分間のトレーニングは終了。ハンドルについたカロリー表示を見ると、私はわずか2キロカロリーしか消費していなかった。考えてみれば、これは三次元空間でもないし、相互作用があるわけでもないので疑似VRと呼ぶべきだろう。私が頭の中で疑似VRをVR化してしまったわけで、過剰に「バーチャルな世界に没頭」するとワークアウトにならないのだ。

旅行体験を味わえる世界初のバーチャル航空施設

続いて訪れたのは池袋の「FIRST AIRLINES」だった。HPによると、「地上にいながら航空・世界旅行の体験を味わうことのできる世界初のバーチャル航空施設」とのこと。行き先はハワイ、パリ、ローマ、ニューヨーク、ヘルシンキなどで旅の所要時間は110分(料金は5980円)。「誰もが一度は経験してみたい、夢のファーストクラス」(パンフレットより)での海外旅行としてはかなり格安なので、私は妻を誘うことにした。

ちなみに彼女はNHKの番組『世界ふれあい街歩き』のファンで「ずいぶん世界中を歩いた」などと言っている。つまりVRを生きているような節があり、この企画にピッタリだと思ったのである。

とあるビルの一室。ここが池袋国際空港らしく、玄関先でパスポートと搭乗券を受け取る。そして奥の部屋に通されると、そこは飛行機の中。エアバス310などのファーストクラスの座席が12席並んでいた。CA姿の女性が前に立ち、「……本機の機長は阿部。ダニエル・K・イノウエ国際空港まで7時間45分のフライトをお楽しみください」などと日本語と英語でアナウンスし、救命胴衣や酸素マスクの説明もする。

VRというよりコスプレか。

と思っているとシートベルト着用を指示され、いよいよ離陸。