成人後の生活習慣で遺伝子スイッチはオン・オフできる

それを決めるのが第4の関門、成人になってからの生活習慣です。体の「設計図」であるゲノムや幼いころの環境を自分で選ぶことはできませんが、成人後の生活習慣次第で悪い遺伝子のスイッチを切ったり、健康に役立つ遺伝子のスイッチを入れたりできることが明らかになってきています。

動物性脂肪を食べ過ぎると脂肪を多く含む食品への依存が発生します。これを聞いて、「どうやら自分も依存症みたいだ。今さら抜け出すことはできないんだろうか?」と感じた人がいるかもしれません。

抜け出すための鍵はすでにみつかっています。動物性脂肪の依存症になって肥満したマウスの脳ではエピジェネティクス変異が起きていて、ドーパミンを受け取る構造を作るよう指令を出す遺伝子のスイッチがオフになっていました。

そのため、遺伝子のスイッチが切れるのをじゃまする物質を使って遺伝子をオンにしたところ、マウスは動物性脂肪を多く含む餌を以前ほど食べなくなりました。取りつかれたように動物性脂肪を食べていたのが嘘のようです。

動物性脂肪への依存症をやわらげる玄米

もちろん、こんな危険な物質を人に使うわけにはいきません。2021年の時点で遺伝子のスイッチを切り替える技術に関する明確な規制はないため、使用しただけで罰せられることはありませんが、スイッチがオフでなければいけない他の遺伝子までオンにしてしまう恐れがある以上、投与は慎重に検討すべきです。

でも大丈夫、もっと安全な選択肢があります。玄米です。玄米に含まれるγ-オリザノールという成分は脳で起きた好ましくないエピジェネティクス変異を修正して、動物性脂肪への依存症をやわらげると報告されています(*5)

図表1の上に描いたように、稲の籾を包む固い籾殻を除いたものが玄米で、ここからさらに糠と胚芽をはがすと白米になります。γ-オリザノールは稲の糠に含まれているため、白米からは摂取できません。

人での研究も始まっています。メタボリックシンドロームに該当する日本人男性を2つのグループに分けて、白米と玄米を2カ月ずつ食べてもらう実験を行いました。

他の食品の摂取量は同じで、白米だけを同じカロリーの玄米に置き換えています。