【田中】まさにコーポレートメッセージの中にも練り込まれていますし、どんなにAR、VRがリアルになっても、直接触れる、試せる、実際に身近にあるということが大きな違いでしょうね。冒頭でブランディングの話をしましたが、私は企業戦略、マーケティング戦略を専門にしています。マーケティングにはさまざまなフレームワークがありますが、フィリップ・コトラーがブランディングで重視したものが「類似化ポイント」と「差別化ポイント」です。

田中道昭氏
田中道昭氏

コロナ禍で変わった「消費者の哲学」

消費者がどんな商品を買うにしても、まずは「類似化ポイント」、すなわち事業や商品・サービスにおいて最も「当たり前のこと」が徹底されていることが重要です。消費者は、「類似化ポイント」が達成されているかどうかを無意識に感じ取り、そして「差別化ポイント」、要は売りがあるかどうかを確認して、その二つがあって初めて購買に至ります。

当たり前のことが充足されていて、その上さらに「差別化ポイント」、売りがあるかどうかで買われる、ということは商いの鉄則だと思います。ファミマが出された事業戦略で注目しているのは、その中で「美味しい商品の開発」「利便性の追求」「親しまれるお店づくり」という基本を徹底すると書かれていることです。

私はコンビニ業界の平均日販におけるトップとその他企業との違いは、コンビニとして当たり前の「おいしさの追求」や「利便性の追求」など、類似化ポイントで日販の差の8割がついていて、差別化ポイントは実は2割ほどしかないと思っています。それほど、今回打ち出されている基本の徹底は非常に重要だと思っています。細見社長自身、今私が申し上げた文脈での類似化ポイントである基本の徹底、あるいは最も重要だと思うおいしい商品の開発についてはどのようにお考えでしょうか?

【細見】これに関しては、今、時代の大きな分岐点にいると思っています。消費者の哲学がこの2年で凄まじく大きく変わりました。コロナでなにが変わったのかというと、それまではインターナショナルサプライチェーンの時代であり、世の中がとても便利になったわけです。そこに若い世代を中心に、「これがサステナブルな社会なのか?」という問いが、この数年間現れてきました。

コロナの2年間でサプライチェーンも滞りが見られるようになり、今までの大量生産・大量消費への反省とともに、過度なもの、コンビニに置いてある食べものでも、過度においしいものに対する反省が消費者に出てくるのではないかと思います。

【田中】よりシンプルに、ミニマルな側面が出てきていますよね。