あらゆる業態がデジタルシフトする中で、コンビニは生き残れるのだろうか。2021年にファミリーマートの社長に就任した細見研介さんは「インターネット全盛期の時代だからこそ、コンビニは商品を実際に見て販促ができるプラットフォームになれる可能性がある。モノを売るのではなくインフラを提供するのがコンビニの役割だ」という。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授が聞いた――。(後編/全2回)

※本稿は、デジタルシフトタイムズの記事「顧客接点・メディア・インフラ提供。DX時代のコンビニの新たな可能性。」(3月10日公開)を再編集したものです。

ファミリーマート
写真提供=ファミリーマート

デジタルと一日1500万人の顧客をどう結び付けるか

【田中】次にお伺いしたいのが最近のファミマの広告戦略です。画期的だと思うのはメディア広告事業の可能性です。私は、コロナ禍の2020年5月に出した著書『2025年のデジタル資本主義 「データの時代」から「プライバシーの時代」へ』の中で、「これからすべての会社がメディアカンパニーになることを求められている」という主張をしています。

昨年の2021年6月には『世界最先端8社の大戦略「デジタル×グリーン×エクイティ」の時代』という著書を出しました。その第一章ではウォルマートを徹底的に分析しています。ウォルマートはコロナ禍で顧客とデジタル、スマホでつながることで成功し、「Walmart Connect」というリテールメディア事業を本格的に立ち上げました。

店舗だけではなく、ウォルマートはデジタルで顧客とつながって、デジタルでの広告事業を本格的に始めています。ファミリーマートの場合は、店舗のデジタルサイネージ等を活用することになると思いますが、リテールメディアとしてのファミマの可能性についてはどのようなことをお考えですか?

【細見】3年ほど前からいろいろ手を打ち始めていて、決済と販促アプリが一体になった「ファミペイ」を既に導入しており、現在は1,000万規模の方にダウンロードをしていただいています。それとは別に一昨年、NTTドコモさんと「データ・ワン」というターゲティング広告の会社をつくりました。私たちのデータ量だけでは足りない部分もありますので、ドコモのデータとサイバーエージェントの代理店のノウハウを取り入れ、Cookieを使わずに、情報を立体化させて広告に活用していくという仕組みを構築しました。

メディアという側面については、デジタルサイネージを急ピッチで、可能な店舗にできる限り設置していきたいと思っています。さらにリアルのお店のパーツとパーツをどう組み合わせて新しいサービス、新しい事業を作っていくのか。

リアルの店舗は日本国内だけで約16,600店あり、そこには約1,500万人の国内外のお客様が日々訪れます。これはリアルの顧客接点になります。「ファミペイ」でリアルの顧客接点と、1to1のデジタルの顧客接点を持っていますので、このあたりをどうシンクロナイズ(同期)させ、インテグレート(統合)させるのか。それが私たちの新しいビジネスモデルの課題です。

利害が対立しても消費者が第一

【田中】私のオフィスは半蔵門にあるのですが、半蔵門はファミマのドミナント戦略(※1)のど真ん中だと思います。たくさんの店舗が半蔵門にあり、一部の大型店舗ではメディアコーナーで化粧品会社の取り組みがなされていました。広告事業はBtoBの事業ですし、ファミマの事業自体もBtoBとBtoCの事業がマッチングしてきたビジネスだと思います。

(※1)特定のエリアに経営資源を集中し、市場の独占を狙う戦略のこと

2年ほど前にAmazonの本部長とデジタルシフトタイムズで対談をしたのですが、Amazonはビジネス上でBtoBのクライアントの利害とBtoCの消費者の利害が対立した場合は、社内のルールとして消費者の利益を優先することが定められているそうです。非常に難しい質問かもしれませんが、事業をしていると利害が対立することがあると思いますが、そこはどう調整していますか?

【細見】ファミリーマートのコーポレートメッセージである「あなたと、コンビに、ファミリーマート」の「あなた」とは常に消費者です。これは私たちにとって常識化していますので、そこはあまり議論の余地はないと思います。

【田中】広告事業というよりは、消費者がなにをどこで買うのかに対する購買支援事業という捉え方でしょうか。

【細見】そうですね。