「ジャングル」のような構造が “衝動買い”の機会を増やしている

では、どうしてドンキの店内はこんなにも複雑なのか。ここからはその理由を考えてみたいと思います。ふつうに考えるなら、なにかを売っている場所は、商品の場所がすぐにわかるほうがいいのではないか。

じつは、そのヒントもまた、「ミラクルショッピング」に含まれているのです。

歌詞のなかに、「衝動的でも得したネ」という一節があります。これが、そのヒントです。「衝動的」な買い物。そう、つまり「衝動買い」のことです。買う予定はなかったのに勢いで買ってしまう――あなたも経験があるかもしれません。ここでは、その「衝動買い」のことが歌われている。

どういうことでしょう。ドンキは「ジャングル」のような複雑な構造をしている。そうすると、店舗のなかで迷ってしまうこともあるわけです。迷子になって、通るはずではなかった通路を通って、そこに予期せぬ商品との出会いが生まれる。買うつもりのなかった商品でも接触する回数が増えることで、「あ、これ欲しい!」とか「これ、いいかも!」と思う可能性が高まるわけです。そうなると店側としては当然、儲けが増える。

ドンキの空間戦略は一見すると不合理に見えるのですが、小売店の目標の一つである「儲ける」ということを考えたときの戦略としては、ある意味、合理性があるわけです。コストコや一般的なスーパーの戦略とは異なる独自のロジックではありますが、それで収益を伸ばしているのですから、理にかなっていることには間違いありません。

効率的に儲けるための仕組みが、自然に「ジャングル」を作り出した

そして、このときに重要になるのが「圧縮陳列」という手法です。これは、棚いっぱいに商品をぎっしり詰めるという独特の商品陳列方法。ドンキの棚にはこれでもか、というほど商品が並べられていることが多いのですが、それは圧縮陳列によるものです。

谷頭和希『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社新書)
谷頭和希『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社新書)

この陳列にも、ドンキ独自のロジックが働いています。店舗のなかでいろんな商品と出会わせたいと複雑な店舗構造にしても、商品がたくさんなければあまり商品と出会えません。そのために圧縮陳列をすることで、少しでも多く商品と触れる機会を増やすわけです。結果として、棚には商品がうずたかく積み上げられることになり、店舗内の見通しがきかなくなって、店内が複雑になるのです。

整理しましょう。ドンキの店舗は複雑でジャングルのようである。その複雑さはどこから生まれているかというと、衝動買いを誘発するための合理的な仕組みから生まれている。その仕組みを徹底させるなかで、より多くの品物を並べる「圧縮陳列」にたどり着き、それらによって店舗がさらに複雑になっていく。

このようなメカニズムで、ドンキの店舗は複雑に、そしてジャングルのようになっているわけです。

注目したいのは、ドンキが持つ「複雑さ」とは、複雑であることを目的としてそうなったのではなく、むしろ、効率よく儲けるための仕組みを徹底させたところに自然と生まれてきたものである、ということです。

【関連記事】
中国料理店より勢いがある…コロナ禍の横浜中華街でどんどん増えている「意外な商売」
メニューは白飯とステーキだけ…新小岩の「二郎系ステーキ店」に行列ができる"納得の理由"
たった3年で350店以上に大増殖…ギョーザの無人販売が異次元の速度で出店できるワケ
「10万円超の最新iPhoneがなぜか1円」携帯キャリアがスマホの投げ売りに走る意外なカラクリ
「ワイン離れが止まらない」フランス人がワインの代わりに飲み始めたもの