漫才師の日本一を決める「M-1グランプリ」。そこで結果を残し、一夜で人気者に変わった芸人は数多い。だが、お笑いコンビ・平成ノブシコブシの徳井健太さんは「M-1を始めた島田紳助さんは『若手漫才師がやめるきっかけになれば』と話していた。M-1に希望はない」という。徳井さんの著書『敗北からの芸人論』(新潮社)より紹介する――。(第2回)

「M-1は芸人の希望なんかじゃない」と思うワケ

僕は最近『僕のヒーローアカデミア』というアニメにハマっている。最高のヒーローを目指す感動青春活劇。エピソード5が2021年の3月から新たに始まり、8月には3作目の映画も公開された。

その物語のスーパーヒーロー・オールマイトが言っていた。「常にトップを狙う者とそうでない者……そのわずかな気持ちの差は社会に出てから大きく響くぞ」いつものように、笑いながら言っていた。

僕のスーパー先輩、極楽とんぼ・加藤浩次さんも言っていた。「ナンバーワンを目指したからこそ、オンリーワンになれるんだ。最初からオンリーワンなんて目指すんじゃねぇ」いつも通り、顔をしかめて吠えていた。

だから、M-1グランプリで優勝したい! その思いで駆け抜けた青春の日々は、決勝に行こうが優勝しようが万年1回戦で落ちようが、時が過ぎると、それはキラキラとした経験に変わる。

島田紳助が大会に込めたあるメッセージ

2001年、M-1グランプリが始まった。僕ら平成ノブシコブシはまだ芸人になったばかり、ホヤホヤ2年目くらいだった。結成から15年以内の若手コンビ(当時は10年以内)が漫才で日本一を決める。

一部では「芸人がお笑いを辞めるきっかけのひとつとして」作られた大会とも言われている。「芸歴10年にもなって、M-1の決勝に出られないなら諦めた方がいい」とは、大会の名付け親で大会委員長も務めた、島田紳助さんからの殺生なメッセージだ。厳しいがそれが現実なのかもしれない。