M-1は決して、芸人の希望なんかじゃない

お笑いというのは正解がないうえ、日々、その瞬間、状態によっても「何がウケるか」は変わる。その掴み所のないものを、M-1グランプリでは競う。

勝つために、みな、努力とかいう抽象的な行動で自分たちの「お笑い」を研ぎ澄ます。15年という時間制限もある。

僕たちには到底越えられなかった分厚くて高い壁を、爪をがしながら血だらけで乗り越える後輩や先輩、同期たち。M-1に挑戦し、くじけ、解散したコンビも数多くいる。

M-1は決して、芸人の希望なんかじゃない。

徳井健太『敗北からの芸人論』(新潮社)
徳井健太『敗北からの芸人論』(新潮社)

夢は叶うさ、なんて戯言をいつまでも信じさせることは愛じゃない。

次のM-1もまた、感動と笑いをきっと生む。そして、新たなチャンピオンも生まれる。そんなニューヒーローの足元には、夢を諦めた人間の死体が転がっている。

新鮮な死体、腐った死体、まだ死んでもいないのに死んでしまったと決めつけられている死体……。日本一残酷なショーが、僕は今から楽しみで仕方がない。

『僕のヒーローアカデミア』のスーパーヒーロー・オールマイトは、どんなに辛い時でも笑う。僕の見てきた偉大な先輩たちは、いつでもみんなを笑わせていた。

僕は誰かの足元に死体として転がったとしても、笑っていたい。その無様な顔を見て、笑われたい。

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