東京の若手芸人に夢を与えた先輩たちの躍進

だから2003年に、敗者復活からあわや優勝か? となったときも、僕は全然驚かなかった。2004年はタカアンドトシさん、トータルテンボスさん、POISONGIRLBANDさんなど、話したことのある先輩やお世話になっている先輩もM-1グランプリの決勝に進出した。

かすんでいた幻の夢の島は、くっきりと姿を現し東京の若手芸人たちにも甚大な影響をもたらし始める。

人はここまで面白くなれるのか

2005年のM-1はルミネtheよしもとの楽屋で観ていた。大勢の先輩後輩同期がそこにはいた。

ブラックマヨネーズさんの決勝の2本目を全員が固唾かたずを呑んで見守っていた。何しろ1本目のネタが別格にウケていた。勝負の2本目。始まってから、その場はしばらく静寂が続いた。だがこれは「我慢」していたんだと思う。

本来ならルミネの楽屋で、芸人が集まって観ていい番組なわけがない。別の仕事をしているか、自分も決勝の場にいなければならないはずだ。そんなプライドや焦りからか、遠く離れた新宿ルミネの楽屋は、まるで重馬場だった。

雨でぬかるみ、競走馬が走りにくい。けれどそんなことは関係なかった。泥を蹴り散らかし、馬群を駆け抜け、ルミネの楽屋も大爆笑に包まれた。

清々しいほどの大爆笑。ここまで面白くなれるのか、人は。驚異をさらに超えた次元で、ブラックマヨネーズさんは優勝をもぎ取った。

M-1の決勝は魂を削ることである

2010年、M-1グランプリの主人公と言っても過言ではない笑い飯さんが優勝した。

この頃になると後輩が決勝に出ていることも珍しくなかった。劇場での笑いの差も激しかった。ネタの面白い人間とそうでない人間――お客さんですらそうやって分けているんじゃないかという猜疑心さいぎしんすら生まれた。そんななか、ピースが決勝に残った。

キングオブコント決勝進出に続き、M-1もファイナリスト。同期である僕らの間には、いつの間にか決定的な差ができていた。M-1グランプリの決勝に出ることは、魂を削るっていうことだ。