入社して40年近くになりますが、システムが変わったり、処理の仕方やスピードは変わっても、情報の流れは何ひとつ変わりません。今の立場で仕事をしていても、情報の流れから「ここは違うんじゃないの?」「こっちはどうなった?」とすぐに指摘できます。

次に配属されたのは調査部門で、そこではリサーチの基本を学びました。

「調査」とは何も消費者に答えを求めることではない。自分である程度の仮説を立て、最後に量的検証を行う。それがリサーチです。仮説立証型の思考法は、のちのち、マーケティングの仕事にも大いに役立ちました。

念願叶ってマーケティング部門に配属されたのは結局、入社7~8年目のこと。当時のマーケティングの最高責任者が私を採用したときの人事部長で、「おっ、来たな」と一言言ってくれたことをよく覚えています。会社にそういう思惑があったかどうかは定かではありませんが、情報とリサーチはブランドマネージャー時代の私の得意分野であり、マーケッターとしてのコアになりました。

マーケッターには調査はもちろん、販売や広告、経理などさまざまな知識が必要です。真のマーケッターになるには、むしろ専門性を持ちながら、いろいろな分野を経験して最後にマーケッターになるのがいいのではないかと今は思います。

「天祐は常に道を正して待つべし」

毎日毎日なすべきことをしていれば、自ずと天の助けで願いが叶う――。花王の創業者である長瀬富郎の言葉です。

スマイルズの『自助論』の序文にある一節「天は自ら助くるものを助く」も同じこと。夢や希望は捨てずに、いつかどこかで実ると信じて、どんな仕事も毛嫌いしないでコツコツ努力すれば、いずれ道は拓けるはずです。

夢を抱き続けることに関しては、今の若い世代には同情すべき余地もあります。戦後直後に生まれた我々のような団塊の世代は、日本の高度成長とともに自分が成長できたし、そこに自分の夢を重ねることができました。しかし、市場が成熟し、GDPも中国に追い抜かれようかという今の時代は、ともに夢に向かう伴走者を見つけにくい。

だからこそ視点をアジアや世界に広げてみるべきだと思うのです。アジアの成長とともに自分も成長しようと飛び込める人材は、きっと夢をつかみ取れると思います。

※すべて雑誌掲載当時

(小川 剛=構成 大杉和広=撮影)