世界最先端技術を駆使し、濃縮度の高い洗剤を開発してきた研究者にとって、手洗い洗剤など過去の遺物でしかありません。気乗りしない様子の彼らを、私は「答えが出るまで帰ってくるな」とばかりに送り出しました。現地のアパートに住み込んで、手洗いの現場を朝から晩まで見続けて、大変な思いをしたようです。

しかし、手洗いの苦労を実感して自分で工夫を凝らして商品を開発し、それを使った現地のお母さんたちの笑顔や喜びの声に接しているうちに、仕事の面白さや使命感に目覚めてきたのでしょう。何回か帰国して報告に来るたびに、自信とやる気に満ちてくるのを感じました。

「国際感覚」とは、経験を積み重ねて、トライアンドエラーを繰り返しながら、ようやく獲得できるものです。それを助ける強い意志や使命感は、よきモノづくりから得られる人々の反応や、やりとりのなかから生まれると言えるでしょう。たとえ未体験の世界だったとしても、そうした環境に身を置いて、自分を磨くことが大事なのではないかと思います。

逆に人材として困ると思うのは、仕事の選り好みをしたり、自分の専門性に拘泥して、仕事の入り口を限定してしまう人です。

1つの職種でキャリアアップしていく欧米流に対して、職種の垣根をフレキシブルに乗り越えて多様なキャリアを積み上げていくのが日本の人事制度の強みです。高度な専門性が求められる仕事もありますが、一般的な職種においては自分の専門にこだわって道を狭めるべきではない。若いうちは間口を広げて幅広い経験を重ね、さまざまな分野の視点を蓄積しつつ、徐々に自分の専門性を確立していくほうがいいのだろうと思います。

マーケッター志望なのに情報部門の配属に

振り返れば、私もいろいろな仕事を経験してきました。そもそもはマーケティングをやりたいと思っていて、そう希望して入社しました。ところが最初に配属されたのは情報部門。「ちょっと違うところに入ったかな」というのが正直な気持ちでした。

しかし、結果的には情報部門にいたおかげで会社の情報の流れがすべてわかるようになった。販売系の情報、マーケティング系の情報、生産系の情報、経理の情報……どのような情報がどう動いて、どことどう関わり合っているのか、全体の流れを一括して把握できるのは情報部門しかないのです。