「子どもは親を選べない」を覆したワンシーン

2021年には「親ガチャ」という言葉が流行りました。それが意味するのは、景品を選べないカプセルトイと同様、子どもも親を選べない……。

ところがこの映画では、虐待する親の元に戻るか、万引きをする優しい親の元に残るかという選択肢が与えられます。事実、すでに家族の一員になっている松岡茉優まゆさん演じる亜紀も、自らの意思によって「家族」になることを選んでいるのです。

亜紀の実の家庭は裕福で一見幸せそうな家族です。ですが、何らかの思いから実の家族から離れ、治たちの家族の元で暮らしています。その背景が垣間見える会話のシーンがあります。

亜紀が治に「普段、信代さんといつセックスしているの?」と尋ねるシーンです。治はそれをはぐらかすように「俺たちはここ(胸を指差して)で繋がってるんだよ」と答えます。ふと笑いながら「ウソくさ」と答える亜紀。それに対して治は「じゃあどこで繋がってると思うんだよ」と言うと、亜紀からスッと笑顔が消え「お金。普通は」と答えます。

このセリフから、恐らく亜紀の家庭は裕福が故に家族間の問題を感じていることが分かります。そんな亜紀の暗い表情を察したのか、治はこう答えます。

「俺たち普通じゃねえからな。へへっ」

「親を選ぶ権利」もあるのではないか

子供のような冗談に聞こえながらも、その言葉に亜紀の表情がゆるみます。決して普通ではない他人の集まりこそ、亜紀が自ら選んだ親であり家族なのです。

現実ではほぼ存在しない「子どもが親を選ぶ権利」。しかし、この映画の中では、自ら選んだ「家族」に属し、貧困の中でも幸せそうに過ごす子どもたちの姿が映し出されます。

子どもは親を選べない……。多くの大人たちがこの現実の上に胡坐あぐらをかき、子どもたちの気持ちを軽く見ているのかもしれません。『万引き家族』という映画は、「家族」に関するあらゆる悩みを明確化し、解決するための手段を与えてくれるのではないかと改めて考えさせられましたね。

両親が離婚した家庭で育った僕は、「家族だからといって、別にお互い仲良くする必要はない」と思っている派で、もう少し丁寧な表現をすると「血が繋がっていても、家族なんてバラバラになってしまえば他人も同然だし、血が繋がっていなくても家族になりえる」という考えの持ち主です。そもそも夫婦だってもともとは他人なわけで、「結婚」という制度によって家族になっているだけ。それが親子となると、血縁関係が前提になってしまう。それがどうしても納得できないんですよね。

もちろん、僕のこの考えに共感できない人もたくさんいるでしょう。しかし、この考えを代弁してくれるような映画があるので紹介しておきます。