親に必要な「放っておく勇気」

【高橋】まったく同感です。私はかねてより、「親は自分の願望を子に託すな」と訴えています。「こういう教育をしてやれば、自分にはできなかったこんな夢が実現するのではないか」というような気持ちが強すぎる。試したいのであれば、たとえば我が子に英会話を習わせる前に、まずは自分がやってみればいい。

もちろん子どもに期待する親心は当然のものですが、だからといってあれもこれもと押しつけて、日常の幸せを奪っては本末転倒です。「放っておく勇気」も必要なのです。

結局のところ、子どもに後悔してほしくないからではなく、親自身が後悔したくないだけなのでしょう。私はそれを「後悔したくない症候群」と呼んでいます。

【養老】なるほど、うまく名づけましたね。昨今はますます、子どもの時代が「大人になるための準備期間」のように捉えられていますね。そうして「幸せの先送り」が進んでいく。すると子どもたちは、自分がいつ幸せを享受できるのか、一向に実感できない。

若い世代の自殺が多いのは、幸せな瞬間が未来に回されるばかりで、「いま」を体感できていないからだと思います。子どもの時代に幸福を味わっていれば、そう簡単には自殺に走らないのではないでしょうか。

別の言い方をすると、子ども時代が独立した人生ではなくなっている。人生の一部としか見られていないのです。子どもの時期がハッピーであれば、人生の一部がハッピーになる。その幸せが将来に先送りされるから、「いつになったら、自分は自分の人生を生きることができるのか」という迷いが生じてしまうわけです。

「正しい子育て」なんてない

【高橋】最近流行りの「自己肯定感」という言葉、実はあまり好きではないのですが、あえて使うならば、人は生まれてきた瞬間が最も自己肯定感が高いはずです。「生まれてくるんじゃなかった」と思って生まれてくる赤ん坊はいませんからね。

赤ちゃん
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そういう幸福感に満ちた子どもの心が、成長するにつれて、家族や周囲、そして社会からのプレッシャーを受けてしだいに擦り減っていく。

ところが親はそうとは知らず、ネットに流布するさまざまな「正しい子育て」に直面し、親としての自信をなくしてしまう。そもそも「正しい子育て」なんてないと開き直ってほしいというのが、小児科医としての私の切実な思いです。