子どもの自立性を認めよう

【養老】早期教育は是か非か。このテーマは、大人が子どもといかに本気で向き合うかに尽きるのではないでしょうか。

学校という教育現場の実情を考えると、生徒一人ひとりの「個性」などというものに合った教育をしようものなら、教師の身体がもちませんよ。そうではなくて、子どもが自立して動く姿をつぶさに観察しながら、教師は必要なタイミングで「手入れ」をする。日本人が自然に対して抱く感覚に近いのですが、相手の自立性を認めたうえで、上手に扱うのです。

大事なのは、相手は自分とは違うルールで動いていると認めること。そのためには相手と本気で向き合わないといけないし、一日も手を抜けない。生きているものに接するとは、そういうことではないですか。

肥料のあげすぎは良くない

【高橋】教育とは生き物と接することだと捉えるならば、「早期教育」という言葉には違和感が出てきますね。そんなに焦って触れ合って、何がしたいのかということになる。

養老孟司『子どもが心配』(PHP研究所)
養老孟司『子どもが心配』(PHP研究所)

【養老】そういう意味でも、一次産業や自然に接することが重要なのです。農業に勤しむ人であれば、適切な時期に適量の肥料を与えれば、ちゃんと米が収穫できることを実感しています。言い換えれば、「早い時期に肥料をたくさんやっても、米がたくさん穫れるというものではない」ということが、経験的にわかっています。

また以前、オリーヴを輸入している業者の方に聞いた話ですが、ヨーロッパには400年も昔のオリーヴ畑があるそうです。いまでもちゃんと実がなり、油が採れる。ところが最近できたオリーヴ畑は、せいぜい100年くらいしかもたないといいます。

何が違うかというと、肥料なんです。昔は肥料がないから、やせた土地に木を植えるしかなかった。でも木は、だからこそ一生懸命、根を張って育ち、長い寿命を生きることができるのでしょう。

動物にも似たようなことが言えるようです。最近読んだある医学の本によれば、若いときに十分な食料を与えられなかった動物のほうが、実は長生きするという。この説が本当であれば、非常に興味深い。

早期教育に関しても同じで、そんなに早く肥料をあげる必要があるのでしょうか。人間も、むしろ幼いころに一定の欠乏感を抱くほうが、将来のためになるのかもしれません。

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