iPhoneの「Face ID」など、いまでは日常生活のさまざまな場面で顔認証技術が用いられている。NECフェローの今岡仁さんは「顔認証の仕組みは人間の脳にも備わっている。コンピュータによる認証の仕組みは、脳の仕組みと共通な部分が多く、決してブラックボックスではない」という――。

※本稿は、今岡仁『顔認証の教科書 明日のビジネスを創る最先端AIの世界』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

顔認証システム
写真=iStock.com/Zephyr18
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パスポートの顔写真と本人を見分ける顔認証システムの仕組み

顔認証システムとは何かについて、その構成要素を定義し、仕組みを簡単に説明します(図表1)。

【図表1】「顔認証システム」の構成
出所=今岡仁『顔認証の教科書 明日のビジネスを創る最先端AIの世界』(プレジデント社)

たとえば、空港の出入国管理では、国境を通過しようとしている人がパスポートに記された氏名・国籍の人物と「同一人物であるか否か」を確認します。このとき、顔認証システムは、国境を通過しようとしている人物の顔画像を撮影し、パスポートに埋め込まれた顔画像と比較し、同一人物であるか否かを判定します。

したがって、顔認証を行うためには2枚の画像が必要になります。1枚目は、国境を通過しようとする際に国境に置かれている認証端末で人物を撮影した画像です。これは「照合画像」と呼ばれ、顔画像の「照合」のために国境を通過しようとする度に撮影されます。もう1枚は、パスポートにあらかじめ埋め込まれている顔画像である「登録画像」です。

照合画像は、国境(出入国審査場)に置かれている「認証端末」という装置で撮影します。

顔を探し出し、特徴を取り出し、比較する

顔認証には、同一人物であるか否かをAI(人工知能)が人間に代わって判定する「顔認証アルゴリズム」も必要です。

さらに顔認証アルゴリズムには、「顔検出」「特徴量抽出」「顔照合」という3つの重要な機能があります。

第1の機能である顔検出は、登録画像や照合画像に写っている顔を探し出し、顔の位置を特定します。

第2の機能である特徴量抽出は、照合画像や登録画像に写っているバラエティに富む個人の顔の違いを、たとえば、(0.5,0.2,0.3,……,0.2,0.7)のような数百から数千の要素の数値列(特徴量)として取り出します。

これは、画像を画像のままコンピュータが扱うと「同一人物か否かの判断」に多大な時間を要し、スピーディな本人確認が実現できないからです。そのため情報量を圧縮し判定を容易にするために、顔画像を数値データとしての特徴量に置き換えるのです。この特徴量の設計次第で、顔認証システムの精度とスピードが大きく変わってきます。

そして、第3の機能である顔照合は、照合画像から抽出された特徴量と、データベース上の登録画像から抽出された特徴量を比較し、同一人物であるか否かを最終判定します。