ウイグル人をテロリストにしないための施設

メイセムは、再教育センター行きの車の後部座席に乗り込むよう命じられた。1カ月分の服を取りに家に戻る機会は与えられなかった。

メイセムの母校の高校の横を通った車は、それから自宅の近所を過ぎていった。祖母のかつての住まいや地元の公園が眼に飛び込んできた。伝統的な日干しレンガ造りの家々、カシュガルの旧市街を取り囲む城壁が見えた。メイセムは、重大な過ちを犯したことに気づきはじめた。なぜこれほど簡単に自分の権利を放棄し、すぐに命令にしたがってしまったのか……。どこに連れていかれているのか、彼女にはまったくわからなかった。

1時間ほどたつと、目的の建物が視界に入ってきた。メイセムは、口から心臓が飛びだしそうなほどの緊張に襲われた。

「銃をもった迷彩服の軍人がいました。特殊部隊の黒い制服を着た警察官もいた。たくさんの人が、アサルト・ライフルや巨大な棒をもっていました」。のちに彼女はその棒が、スパイク付きの電気ショック警棒だと知ることになる。

中国の兵士
写真=iStock.com/MediaProduction
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「車を降りました。眼のまえにあったのは高校の建物でしたが、明らかに改装されて新しい施設に変わっていました。警察官たちがわたしを待っていました。金属探知機で体をチェックされたあと、ふたつの黒い鉄扉の奥へと連れていかれました」

メイセムは扉の上の看板の文字を読んだ──「わが国家の防衛は、すべての市民の義務である」。

戸口を抜けると、体のうしろで扉が急にバタンと閉まった。

「わたしは市民です。祖国を愛しています。祖国を偉大な国にします」というスローガンが壁に書かれていた。

「その場所の目的は、すべての“時代遅れ”の人々を現代的なライフスタイルへと引き入れることでした。つまり、わたしのような人間がテロリストになるのを防ぐための施設でした」

廊下の突き当りにまた扉があった。突如として扉が開き、警察官が飛びだしてきた。

「入りなさい」と彼は命じた。

扉の奥には、受付係がひとりいる不気味なロビーがあった。部屋の四隅には監視カメラが設置されている。

「どうして地区当局はわたしをここに送り込んだんですか?」とメイセムは訊いた。「何をしなくちゃいけないんですか?」

「質問をしないでください。坐って待っていてください」と受付係はぴしゃりと言った。

「われわれは、きみを助けようとしているだけだ」

10分後、警備員に付き添われた数十人の身なりのいい年配の男女が部屋に入ってきた。

「これはどういうことなの⁈」と、派手な宝石を身につけた年配の女性が声をあげた。「わたしを誰だかわかってらっしゃる⁈ わたしの夫は、副知事のために働いているんですよ!」

黒い特殊部隊の制服を着た10人ほどの警察官が部屋のまえに立ち、そのうちひとりが「政治的再教育コース」をはじめることを宣言した。再教育センターで必須となる教化のためのコースで、1日6時間にわたって続くという。部屋の人々は怒りをあらわにした。