中国にはウイグル人向けの「再教育センター」がある。そこではどんなことが行われているのか。アメリカ人ジャーナリストのジェフリー・ケインさんが、ウイグル出身の女性から得た証言の内容を紹介する――。(第3回)

※本稿は、ジェフリー・ケイン、濱野大道訳『AI監獄ウイグル』(新潮社)の一部を再編集したものです。

バケツ
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海外からの帰国者は全員「再教育」の対象

「再教育センターに行ってもらいます」

「ある日、地区の当局から携帯電話に連絡がありました」とメイセムは振り返った。陳全国が新疆しんきょうトップに就任してからおよそ1週間後、2016年9月のことだった。

「役所に来てください。今日は大切なお話がありますので」と職員は言った。

「ふだんなら役所には母といっしょに行くのですが」とメイセムは私に語った。「でもその日はお母さんの体調が悪かったので、ひとりで行ったんです」

地元政府の庁舎に着いたメイセムは、海外留学や生活経験のあるウイグル人学生のうち知り合いのほぼ全員が手続きの列に並んでいることに気づいた。自分の順番が来ると、メイセムはカウンターの男性職員のところに行った。

「外国からの帰国者は全員、再教育センターに行ってもらいます」と職員は言った。「大切な会合がありますので、出席してください。その場所で1カ月にわたって勉強することになります」。職員は“その場所”がどんなところなのか具体的には説明しなかった。

「1カ月?」とメイセムは声をあげた。「大学院に戻らないといけないんですけど!」。予定では、2週間後にトルコに戻って修士課程の最終年をはじめることになっていた。「あなた方のくだらないプロパガンダを学ぶために、大学院での研究をあきらめろと言っているんですか?」

職員はくわしい事情を知らなかったことを謝ったが、大学院の開始に間に合うようにトルコに戻るための手助けはできないと言った。

メイセムの実家がある地区の監視員であるガーさんも庁舎内におり、出入りする全員に眼を光らせていた。

ガーさんはメイセムを脇のほうに連れていった。彼女が親切にしてくれているのか、あるいは脅そうとしているのか、メイセムには判断がつかなかった。ガーさんはいつも礼儀正しかったが、信用できない人物だった。

「よかった、まだ中国にいたのね。もう離れてしまったんじゃないかと思っていたんです。大きな変化があるようですよ。これがわたしの指示じゃないってことは理解しておいてくださいね。陳全国の指示なんです。彼は大きな計画を立てているっていう噂ですよ。つぎに何が起きるのか、わたしにはわかりません。でも、再教育のまえにあなたにお伝えしておきたくて」