施設でのご褒美はカビの生えたパン
その夜、メイセムは一睡もできなかった。彼女の2段ベッドの横にはバケツが置かれており、女性たちが夜どおし代わる代わるやってきて排尿・排便した。室内にはひどい汚臭が充満していた。
こんなところから早く出なくちゃ、と彼女は考えた。
朝6時に起床のベルが鳴ったとき、メイセムはまだ寝られずに起きていた。監房の室内に、明るい蛍光灯の光が灯った。女性たちはベッドから飛び起きた。
さっとシャワーを浴びた囚人に与えられた最初の仕事は、中庭に出て隊列を組むことだった。彼女たちはそこで運動やストレッチをした。スピーカーから、動きの指示とプロパガンダが入り混じった女性の声が流れてきた。
「体を右に伸ばして! 左に伸ばして! そのまま!」
「繰り返してください! 習近平主席を愛しています! 共産党を愛しています! 自分たちの頭のなかにあるウイルスを取りのぞこう!」
囚人たちはその言葉を繰り返した。女性アナウンサーの声はさらに続いた。「心を清め、思想ウイルスを駆除しよう! わたしたちはみな、国を愛する善良な市民にならなければいけない!」
それから、もうひとつの朝の日課がはじまった。囚人たちは線のうしろに並んで立ち、膝を曲げ、全速力で走る準備をするよう指示された。女性の看守がそばに立ち、叫んだ。
「よーい、どん!」
1分間、囚人たちは中庭を全速力で駆け抜け、賞品のある場所に向かって走った──地面の上の皿に置かれた、カビの生えたパン。メイセムは運動が得意ではなかったものの、必死でがんばった。少しでも気を抜いたら罰を与えられるのではないかと不安だった。
「止まれ!」
女性たちは立ち止まり、息を整えた。
「では、勝者を発表します!」。看守たちは、もっとも速く走り、もっとも一生懸命がんばったと思われる10人ほどの女性たちを選んだ。メイセムも勝者のひとりに選ばれた。
「では、ご褒美を与えます」
看守は女性たち全員を食堂へ連れていき、朝食を与えた。メニューは、ゴール地点に置かれていたカビの生えたパンと白湯だった。走るのが遅かった女性の一部は、罰として朝食抜きになった。
「わたしは食べるのを拒みました」とメイセムは私に言った。「そのパンを食べたらお腹を壊すんじゃないかと心配になったんです。それにお湯は変色して、白い埃がかぶっていました。看守がわざと水を汚したんじゃないかと考えました」