30万人社員を動かす“プレゼン・マジック”
「現在ハイブリッドカーなどに使われているリチウムイオン電池とは次元の異なる新しい電池の研究開発に着手します。そのために電池研究部を新設する」
6月中旬の「トヨタ環境フォーラム」において、渡辺社長はこう宣言した。
大手電機メーカー幹部はいう。
「トヨタが示した次世代電池の目標スペックはかなり高い。開発は困難を極めるでしょうが、こういうプランを公然と発表できること自体に“夢”を感じます」
電池だけでなく、トヨタがここ数年の間に示した目標の中には、ドラマチックなものが少なくない。「燃料消費量をプリウスの半分にするクルマを出す」「1回の給油で地球を1周できるようなクルマを作る」など。今年、新年のあいさつで“改めて”宣言した「ハイブリッドカーを年間100万台生産」という大目標も、これらの前では小さいものに思える。
次世代技術のプラグインハイブリッドカーの開発を手がける商品開発本部の田中義和・チーフエンジニアはいう。
「渡辺(社長)が示す高い目標に、エンジニアはいつも奮起させられます。たとえばプラグインハイブリッドを2010年に出すという発言を聞いて、社内からキツイという意見も上がりましたが、CO2削減という使命を痛感しました」
具体的な“夢”の提案が各部署に刺激を与え、巨艦が動き出す。社長の言葉は、開発、生産、購買から間接部門まで、あらゆる分野に対して影響を与えている。
「明快な理由があれば、一見無謀なテーマにも挑戦させてくれる。だから楽しい」(電池開発担当エンジニア)
トヨタの連結従業員数30万人を超える社員1人ひとりが渡辺社長の“プレゼン・マジック”にはまっているようだ。
(撮影=鷹野晃)