子供の頃から自身を厳しく律するようにとしか教えられず、優しくされなければ、寛容さは育ちにくいでしょう。「他人に迷惑をかけないようにと言われて育ち、大人になったら弱者のために我慢しろと言われたら、自分のことはいったい誰が顧みてくれるのだろう?」と悲しくなるのかもしれません。

でも、誰かに優しくすることは、自分から何かが奪われることではありません。困っている親子と優しいコミュニケーションが取れたら、気遣った人にとってもいい経験にならないでしょうか。子育てを自分ごととして考える父親が増えていき、問題提起をして解決能力を持つ母親が増えたら、子供にとってもっといい世の中になるのではないでしょうか。そして、弱者である子供に優しい社会は、誰にとっても優しい社会になるのではないでしょうか。

お父さんが子供を小児科に連れてくることが増えた

私は、小児科医になって20年以上がたちますが、近年お父さんが患者さんを外来に連れてくることが明らかに増えています。先日、小児科医の会合に出た際にも同様のことを言っている先生がいました。昔の父親は、外来に来なかったし、母親に言われて連れてはきたという場合でも、子供の普段の様子も病状のことも全然把握していないことが多かったのです。

ところが、最近のお父さんは違います。「普段、この子は夜中に1回くらいしか起きないけれど、昨日は3~4回ほど咳をして目が覚めていました」とか、「いつもならこのくらい食べるのに、今朝は半分以下でした」などと教えてくれます。そして、私が通勤する道ですれ違う保育園児にお父さんと一緒にいる子がとても増えています。男女ともに子育てをすることが復活しているかのようです。

小児科を受診する子供
写真=iStock.com/kuppa_rock
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夫婦で子育てをする世代が大人になってきた

今や学校でも、性別役割分業は正しくないと教えています。出席番号も男女で分けなくなりましたし、男女共同参画について学んだ世代が大人になってきています。私が小中学生の頃は、家庭科で料理や裁縫、洗濯の方法を学ぶのは女の子だけで、男の子は技術を習っていました。平成元年からの学習指導要領では、「技術・家庭」は男女とも履修するようになったので、今では考えられないことです。

そういった女の子と男の子が成長して家庭を持ったときには、協力して家事をし、子供ができたら二人で育てるでしょう。少なくともワンオペは「あるべき姿」とは違うと思うのではないでしょうか。子育てをする男性は、子供が公共の場所で騒いでしまったり面倒をかけたりしてしまっても、子供は時に大人の理屈が通じず、親にできることは限られているということを知っていて、冒頭のような「産まなければいいのに」なんて言葉は口にしないでしょう。