「なんで負けたかわかるか?」と問う監督の真意
前に、あるスポーツの試合場の外で、監督が選手たちに向かって「なんで負けたかわかるか?」という質問をしている場面に行き逢ったことがあります。これは別に負けた理由を選手たちに訊いているわけじゃありません。だって、どのような敗因を挙げても監督に叱られるに決まっているんですから。「僕がミスをしたからです」と言えば「なぜミスをしたんだ」と重ねて訊かれる。「練習が足りなかったからです」と答えれば「なんで練習しなかったんだ」と問い詰められる。
「なんで負けたかわかるか?」という問いは、選手たちを回答不能にするために発せられている問いです。「誰がボスか」という権力関係を確認するためにやっている一種の儀礼なわけです。それがわからずにうっかり「監督の采配が悪かったのも一因かと」というような空気を読まない発言をしたら、それがその問いに対しての正解であったとしてもひどい目に遭う。
日常生活において、われわれはつねに「あなたはそう言うことによって何を言おうとしているのか?」という無言の問いをコミュニケーションに際して立てている。
メッセージをどう読解すべきかをまず決定してからしかメッセージの読解に取りかかることができない。表面的な、一意的なメッセージのやりとりだけを追っていっても、ほんとうの意味でのコミュニケーションは成り立たない。
『007』の悪の組織は対面で幹部会を開く
オンラインと対面の違いって何だろうって考えている時に、ふと映画のことを思い出しました。『007』シリーズ。あの映画では、「スペクター」という悪の組織が敵役です。スペクターは世界各国の悪者たちのネットワークなんですが、定期的に集会を開いています。ナンバーワンが招集して、ナンバーツー以下ナンバーテンぐらいまでが集まって「悪の幹部会」を開きます。
この幹部会が対面なんですね。スペクターは最先端のテクノロジーを駆使する悪の組織なんですけれど、なぜかテレビ会議はしない。必ず世界各地からその場に集められる。そして、一人一人業務報告をする。カジノの売り上げとか、麻薬の売り上げとか、誘拐の身代金とか……各支部が活動報告をする。でも、誰かの報告内容が気に入らないと、ボスがボタンを押す。すると、椅子がいきなり燃えたり、床が開いたりして、ボスの不興を買った幹部はその場で処刑される。だから、スペクターの幹部会は必ず対面形式で行われる。